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コラム:メルケル独首相が放つ「無敵のオーラ」は本物か
September 21, 2017 / 2:42 AM / in 3 months

コラム:メルケル独首相が放つ「無敵のオーラ」は本物か

Paul Wallace

9月19日、先の読めない緊張感が漂っていた今年のオランダ、フランス、英国における総選挙とはまったく対照的に、24日に控えたドイツ連邦議会(下院)総選挙は際立って退屈な展開となっている。写真はベルリン市内に掲示されたメルケル首相の選挙ポスター。8月撮影(2017年 ロイター/Hannibal Hanschke)

[19日 ロイター] - 先の読めない緊張感が漂っていた今年のオランダ、フランス、英国における総選挙とはまったく対照的に、24日に控えたドイツ連邦議会(下院)選挙は際立って退屈な展開となっている。

「シュトゥルム・ウント・ドラング(疾風怒濤)」で知られるドイツでは、メルケル首相が4選に向けた道を固めつつあるなかで、嵐(シュトゥルム)も衝動(ドラング)もないベタなぎの選挙戦が繰り広げられている。

勝利がほぼ確実視されるメルケル首相は、フランスのマクロン大統領と協力してユーロ圏の統合を押し進め、トランプ政権下の米国が見放した「ルールに基づいた国際秩序」の擁護者となることを期待されている。

だが、メルケル首相がこうした期待を満たすことは困難を伴うだろう。国内で新たな政治的制約に直面するだけでなく、権力の源泉であったドイツ経済の強さにも、今後はストレスが加わるからだ。

メルケル首相の4期目が、油断ならない政治環境となることを各種世論調査は示している。首相は大きくリードしているものの、2013年の前回選挙に比べて支持率が伸び悩んでいる。直近の調査では、メルケル首相率いる中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)の支持率は36%で、4年前の選挙の時の41.5%より低かった。

ドイツの選挙制度では、連邦議会の議席はおおむね各党の得票数に応じて決まるため、メルケル首相は再び連立を組む必要がある。得票率5%未満の党は議席を獲得できない。

最も安定するのは、再び中道左派の社会民主党(SPD)と大連立を組むことだ。SPDの支持率は現在22%程度だ。

SPD指導部はこれに乗り気かもしれないが、多くの党員は、再び脇役に甘んじることに反対している。その見返りに選挙に勝てるわけでもないからだ。

もしメルケル首相がSPDと連立を組めない場合、2つの少数党と連立を組まざるを得なくなる可能性がある。自由民主党(FDP)と緑の党だ。これは独議会では初となる連立構造だが、自由市場を支持するFDPと、環境保護を訴える緑の党の組み合わせは分裂を呼びそうだ。SPDは、メルケル氏の2期目(2009─2013年)の連立パートナーだった。緑の党は、過去にSPDと連携していた。

こうした連立の方程式は、選挙で小数政党にサプライズが起きれば、変わる可能性がある。ただ、メルケル首相が、いくら時間をかけて連立交渉を行い、どんな連立を組んだとしても、心穏やかではいられない新たな政治現象に直面することになる。

これまでのところ、独連邦議会は欧州を席巻するポピュリズムとは無縁でいられた。しかし、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、2013年選挙で議席獲得を阻んだ「5%の壁」を、今回は突破する勢いだ。

現在10%前後の支持を得ているAfDは、2015年の亡命申請者急増で高まった社会的懸念を利用して、欧州懐疑政党を脱皮し、反移民政党へと変身した。党内部は対立で割れ、他党からも距離を置かれているが、AfDはメルケル首相の政策に対するポピュリスト的な反対勢力の足場として、連邦議会での議席を利用することができるだろう。

メルケル首相の4期目の政治環境が以前ほど好ましいものではなかったとしても、選挙戦での切り札となっている好調な経済状況さえ維持できれば、それを乗り越えることができるだろう。

首相の過去2期に引き続き、今年と来年のドイツ成長見通しは良好だ。製造業は、ドイツが誇る高品質な工業製品輸出が好調だ。経常黒字は極めて大きく、GDPの8%にあたる。好景気と国債の低金利に支えられて財政も健全で、GDPの1%程度の黒字となっている。

2010─2012年のユーロ危機を食い止めたドイツの経済・財政的な強さは、当然のこととして受け止められている。だが、表面的な輝きは衰えていなくとも、同国の成長エンジンは今後、以前ほどは頼れないようだ。

大部分のドイツ経済は、製造業の持つ力強さに欠けている。特に、サービス分野で遅れを取っている、と経済協力開発機構(OECD)は昨年報告書で指摘。多くの職業は、競争を制限する規制対象になっている。ドイツの中小銀行はオーバーバンキング状態にあり、銀行セクターの政府出資率は望ましくないほど高い水準だ。

さらに、ドイツ流の製造業のビジネスモデルも脅かされている。

自動車大手フォルクスワーゲンが米国の排ガス測定における不正を認めた排ガス不正問題は、ドイツの最重要産業に影を落とした。

また、独自動車大手のディーゼル車重視も、今となっては誤りに見える。技術革新と公衆衛生対策の一環で汚染ガスを出す車の禁止に乗り出した各都市の後押しもあり、いまや電気自動車が主流になりつつある。独自動車メーカーは、その開発に追いつくため全力を挙げなければならない。自動運転技術を巡る革命も、彼らにさらなる挑戦を突き付けている。

同国の製造業者は、デジタル・デバイドの間違った側に自分たちが位置しており、米シリコンバレー企業が事実上、多くの製品の高付加価値コンテンツを手中にしつつあるのではないかと懸念している。

ドイツ人は巨額の経常黒字を誇っているが、その裏側で貯蓄を使った投資が不足している。財政健全化を維持しようとする政府の努力は、公共インフラ投資を不適切な水準に導くという結果を招いた。ビジネス投資も抑制されている。

OECDの調査によると、ドイツ企業は、ソフトウェアやマネジメント技術など、効率改善に重要な「知的資本」向け投資で他国企業に遅れをとっている。これが、脆弱な生産性向上の一因となっている。

より深く根本的な弱点は、ドイツの人口が経済的に好ましくない状態にあることだ。国連が6月発表したデータによると、2015年のドイツの中央年齢は46歳近くで、世界一高い日本をわずかに下回った。

ドイツは1950年代半ばから1960年代にかけてベビーブームを経験したが、出生率は、1970年代初めに人口維持に必要な目安となる人口置換水準の2・1を割り込んだ。それ以降、世界的な最低水準で推移してきた。実際、現在の出生率1.5は異例の高さとも言えるだろう。

こうした長引く低出生率は、退職するベビー・ブーマーに代わって働くことのできる若者の減少を意味する。最近の移民急増にもかかわらず、生産年齢人口は低下する見通しで、今後数十年に及ぶ労働人口の落ち込みは、経済成長の足を引っ張ることになる。

メルケル首相は今のところ、無敵のオーラをまとっている。だが実際は、政治や経済、人口面における脆弱さが影響し始めるにつれ、4期目の政権運営はより困難になるだろう。それは、欧州や広い国際舞台で、過大な期待に応えようとする彼女の能力の足かせとなるだろう。

ドイツ主要政党

ドイツ主要政党

*筆者はエコノミスト誌の元欧州経済担当エディター。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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