[シカゴ 21日 ロイター] - 人口動態の傾向は、誰の目にも明らかだ。米国や他の主要産業国の人口は、急速に高齢化しつつある。これは、労働人口が高齢化していることを意味する。だが雇用主側は、対策を準備したり、従業員のニーズに応える対応を驚くほど取っていない。
米国勢調査局によると、現在4800万人いる65歳以上人口は、2050年までに8800万人に達する見通しで、今後30年で倍近くになる。
労働省によると、2024年までに、米国の労働者4人に1人が55歳以上になる。これは、55歳以上の労働者が全体の12%しかいなかった1994年の倍にあたる水準だ。
多くの労働者は、伝統的な退職の年齢を越えても、経済的な理由で働き続けなくてはならないだろう。また、社会とのつながりを保つために働きたがる高齢労働者も多いだろう。シンクタンク、ブルッキングス研究所のジョナサン・ローチ上級研究員はこう予測する。
「60歳になっても、まだ15年は生産的な生活を送れる。この期間は、人生でもっとも精神的に実りの多い時期になることがある」と、ローチ氏は指摘。「彼らは引退してゴルフ三昧の生活を送りたいとは考えていない。そのモデルは、間違っている」
米国の人材マネジメント協会が企業人事の専門家を対象に行った2016年の調査を見ると、雇用主側の視点が短期的で、労働人口の高齢化を予測し、それへの対策を立案する緊急性を感じていないことが分かる。
この調査によると、高齢従業員の退職による短期的影響を分析した米企業は35%にすぎず、10年の長期的影響を検討した社は17%しかなかった。
ほとんどの雇用主は、1、2年を越えて影響を検討する仕組みを持ち合わせておらず、大半は、高齢の労働者を積極的に採用していない。
同協会のアレックス・アロンソ氏は、この調査が実施されて以降、雇用主は同問題により注目するようになっているとみている。
「ほとんどの取締役会で、最近ではこの問題が緊急性をもって扱われるようになっている。だが、いかに事業を維持するかが会話の中心で、多世代にまたがる従業員をいかに管理するかに関心が集まっている」と、アロンソ氏は言う。
証明することは難しいものの、年齢差別も根強い問題だ。だがこの10年あまりの研究で、生産性ややる気が低く、新しいことを習得したり問題を解決したりする能力で劣るなどの高齢労働者のステレオタイプは、随分と覆されてきた。
それでも、偏見は残る。
コンサルティング会社デロイトが全世界で行った調査では、41%の企業が、従業員の高齢化は競争面で不利をもたらすと回答した。割合は、国ごとに違いもみられた。
「文化的な問題もある」と、デロイトのプリンシパル、ジョシュ・バーシン氏は言う。
デロイトのような雇用主は、労働市場がタイトになるにつれてこの問題の重要性に目覚めつつあると、バーシン氏は言う。
「世界中の企業の人事部門とやり取りしているが、彼らは、最適な人材を探すのに最善の場所の1つは、すでに抱えている従業員だということに気づき始めている」
<別のキャリアパス>
最先端の企業は、年配の従業員向けに、タスクや勤務時間をより柔軟にし、若い従業員を教育する機会を設けたり、段階的な退職を実現できる「もう1つのキャリアパス」の設定を検討し始めている。
例えば、デロイトでは、経営幹部になる見込みはないものの、重要な専門知識を持つ従業員向けに、新たなキャリアパスを複数用意した。
大手製造業では、独自動車大手BMWBMWG.DEが、年配の従業員のスキルや経験を評価する先駆者として取り上げられることが多い。同社は、労働環境の効率化のため生産ラインを変更し、職場では年齢で差別しない言葉遣いを奨励している。
ニューヨークのコロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院の高齢化センターでは、この3年、企業に「スマート高齢化」賞を贈っている。受賞企業は、高齢労働者を積極的に採用して登用したり、柔軟な勤務時間を設定したり、若手を教育してもらう機会を設けたりしている。
例えば、今年受賞した会計事務所PKFオコナー・デービースでは、他の会計事務所からは退職を促されるような年齢の会計士を採用しており、従業員700人のうち、250人超が50歳以上になっている。週労働時間の短縮など、勤務スタイルの選択肢も提供している。
「大企業の間では、人的資源流出への懸念が確実に高まっている。長く働いてくれる年配の労働者を雇用する新モデルへの関心は強い」と、メイルマン大学院のリンダ・フリード高齢化センター長は言う。
フリード氏は、高齢の従業員を雇うことで人件費や医療保障費の負担が上昇することを懸念する雇用主もいると指摘。メディケア(高齢者・障害者向け公的医療保険制度)を変更し、高齢労働者も加入できるようにして、雇用主が提供する医療保険に入らなくても済むようにすることを同氏は提唱している。
また、企業が公的年金に負担金を拠出する義務を負う雇用年数を、従業員1人につき計40年までとすることで、企業に採用を促すことを提唱する研究者もいる。
態度の変化も重要だ。
「ビジネス界では、年配の従業員の人材的価値に注目が高まっているが、まだまだ早期の段階だ」と、経済シンクタンク、ミルケン研究所の高齢化研究部門トップを務めるポール・アービング氏は言う。
「浸透するには時間がかかる」
(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)
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