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焦点:米「財政の崖」、大統領選後も打開のめど立たず

[ロンドン 25日 ロイター] ユーロ圏が大惨事に陥るとの懸念はひとまず後退したものの、世界の目は間もなくもう1つの「地獄」に向けられるだろう。米国が6000億ドル規模に及ぶ「財政の崖」(実質増税と歳出の強制削減)を回避できなければ、新たな景気後退を招くことがほぼ確実なためだ。

9月25日、ユーロ圏が大惨事に陥るとの懸念はひとまず後退したものの、世界の目は間もなくもう1つの「地獄」に向けられるだろう。米国が「財政の崖」を回避できなければ、新たな景気後退を招くことがほぼ確実なためだ。写真はオバマ米大統領。ニューヨークで撮影(2012年 ロイター/Andrew Burton)

ユーロ圏の長期的な先行きは依然として不透明なものの、欧州中央銀行(ECB)がスペイン・イタリア国債の「最後の買い手」として行動することを9月6日に約束して以降、市場環境は落ち着きを取り戻している。

11月6日の米大統領・議会選挙までちょうど6週間、米国の政治をめぐる行き詰まりが世界経済のリスク要因として再び認識されている。

世論調査の結果が現状のままで推移し、実際の選挙結果に反映されると仮定した場合、オバマ大統領(民主党)が共和党大統領選候補ロムニー氏を破って再選を果たす見込みだ。議会選では、共和党が引き続き下院を牛耳る可能性が高く、上院でも共和党が過半に届くチャンスがある。

権力のねじれが生じれば、表面的には財政の崖を回避するのが一層困難となるように見える。

シンクタンクである英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)のシニアフェロー、ジーニア・ドーマンディー氏は「米政界における党派性のレベルはこれまでにないぐらい高く、米国が直面しているいくつかの経済問題やその他の問題に賢明に対処することをより困難にしている」と指摘。「米国のシステムは『チェック・アンド・バランス』が働くように設計されており、それが現在まさに起きていることだ。ただ、しっかりとした対応が必要な現在のような時に、それは前向きな意味を持たない」と解説する。

別の英シンクタンク、オックスフォード・アナリティカが主催し、米国などの政治家、政策当局者、企業関係者が集まった最近の会議では、米国が財政の崖に落ちるのは回避できる、少なくとも完全に下まで落ちるのは回避できるという意見がコンセンサスとなった。

とはいえ、近いうちに政治的な妥協が成立するという観測をめぐっては、完全に悲観的な見方も一部にみられた。

欧州のあるエコノミストは、カリフォルニア州のようにアメリカ全体が政治的な停滞に苦しむ巨大な経済体になりつつあることを恐れている、と述べた。

このエコノミストは「米国における民主主義の機能不全は、今後数年間にわたり米国が直面する最も重要な問題となる」と語った。

この会議では率直な意見を交換するため、大半のセッションで話し手の身元を明らかにすることが記者に認められなかった。

<「瀬戸際政策」再び>

北米のある元議員は、米国の政治システムは驚くべき刷新能力を持っていると指摘。行き詰まりは永遠には続かないとの見通しを示した。

一方で、そうした行き詰まりが、ハイテクや科学、製造業といった各分野に対する国内資金の流れを阻害するのではないかという不安が世界的に広まっていると指摘。「瀬戸際政策は、決して政権を運営する手法ではない」と述べた。

財政の崖によって想定される緊縮規模は、最近の米国史では前例のないものであり、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長はこれまでに、その衝撃が既にもろくなっている経済を危険にさらすことになると述べている。

米議会予算局(CBO)も景気後退に陥ると警告している。

対応は遅く目立たないものの、米議会は予算や税に関する主だった決定期限を延長することで、崖からの転落を避けるための方策を確かに模索している。

銀行界では、崖からある程度転落するとの見方は排除されていないものの、政界が妥協に至るとのシナリオもみられる。

ネイサン・シーツ氏が率いるシティのエコノミストは、米議会が実質増税を先送りし、強制的な歳出削減を見直すと予想。結果として、短期的な成長率見通しは比較的穏やかになるなどとした。研究報告の中で「ただ、一般政府債務残高の対国内総生産(GDP)比が既に100%を突破する中、短期的に債務残高がGDPを上回り続け、米国が市場の信頼を急激に失ったり、財政危機に陥る恐れがある」と指摘した。

HSBCも同様の結論に達している。

一定の緊縮・債務削減シナリオを基に、2013年の財政緊縮規模はGDPの1.1%に達すると予想。ただ、米国担当チーフエコノミストのケビン・ローガン氏はリポートの中で、それでも2013年会計年度における財政赤字の対GDP比が6%となり、過去最高規模に達すると指摘した。

<中国めぐる貿易政策>

大統領選の2大候補は貿易振興を掲げている。

中国をめぐっては、ロムニー候補が、大統領就任初日に同国を為替操作国に認定すると公約していることについて、それが適切かどうか懐疑的な見方が広がっている。

実際にそうした場合、米国債の最大の保有国であり、米国にとって第3位の輸出相手国である中国の反感を買う可能性がある。

CLSA(上海)のエコノミスト、アンディ・ロスマン氏によると、2000年から2011年の間に、米国から中国への輸出は542%拡大。その他の国・地域への輸出の伸び率は81%だった。

オバマ大統領も、中国が自動車・自動車部品業界に不当に補助金を支給しているとして、世界貿易機関(WTO)に提訴したと選挙キャンペーン中に発表。ロムニー氏のように、中国に強硬な姿勢をみせている。

大統領選の2大候補は、世論調査の結果に調子を合わせている。

ピューセンターによると、59%の米国人が中国を経済的な脅威と認識している。欧州では、中国を経済的な脅威と認識している人々の割合は45%にとどまっている。

また、米国人の67%が国際的な業務提携が米国経済に良いことだと回答。これは、2011年に同センターが調査した21カ国のうち、貿易に対する支持率としては最低水準だった。

ピューセンターのブルース・ストークス氏は分析報告の中で「この結果により、次期米政権が世界経済の成長を抑制しかねない保護主義的な行動を起こすと、必ずしも解釈できるわけではない」としつつ、「しかし、米政府が貿易を積極的に推進していた努力は国民の疑念に直面し、保護主義的な行動が支持を得る可能性もあることを間違いなく示唆している」と指摘した。

( 記者 Alan Wheatley;翻訳 川上健一;編集 宮崎亜巳)

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