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インタビュー:財政破たん回避に消費税20%など明示を=清家・慶応大教授

 [東京 25日 ロイター] 清家篤・慶応義塾大学教授(塾長)は、ロイターとのインタビューで、欧州債務国よりもはるかに悪化している日本の財政状況について、破たんを回避するには、消費税20%程度への引き上げと年金給付の伸びの抑制が必要だと指摘。政府はそのスケジュールを早急に国民に明示すべきだとした。 

 11月25日、清家・慶応義塾大学教授(塾長)は、日本の財政状況について、破たんを回避するには、消費税20%程度への引き上げと年金給付の伸びの抑制が必要だと指摘。写真は昨年8月、都内で撮影(2011年 ロイター/Yuriko Nakao)

 具体的には、年金支給開始年齢の70歳への引き上げと、消費増税の5%引き上げを2015年より前倒しすることが必要だと提言。さらに、政府が消費増税5%を最初の一歩と位置づけている以上、その先の最終税率を示した上で、その範囲でどんな社会保障の給付が可能かを示す逆算的な試算を行うことで、財政への不信払しょくや将来の社会保障への不安を緩和すべきだとした。

 また、同教授は、もし国債金利が暴騰すれば、消費増税で景気が悪くなるという程度の景気循環的な悪化では済まず、日本の財政は発散に向かうと指摘。債務返済への疑問を市場が持つようになったり、国債の日銀引き受けという最悪のメッセージを市場に送るなどという事態が起きれば、将来的に国債発行による調達未達が起きかねないとした。 

  インタビューの詳細は以下の通り。 

  ──「税と社会保障改革」の成案では、相変わらず高福祉がうたわれているようだが、制度の維持は可能なのか。「低負担低福祉」など他の選択肢は示されないままでよいのか。 

 「現在の日本の財政が普通の状態であれば、色々な選択肢を示せるだろうが、ここまで財政赤字や公的負債が積み上がっていると、その返済原資が相当必要となるため、中負担低福祉程度なら可能だろうが、高負担でやっと中福祉程度だろう」 

  ──そこまで悪化した日本の財政状況について、どうしたら再建できるのか。 

 「現在、約480兆円程度のGDP(国内総生産)に対し公的債務が1000兆円程度にのぼり、GDPの2倍以上となっている。ギリシャでもせいぜい50%程度、イタリア、スペインでも130%程度。それに比べても相当悪い。まだ国内貯蓄残高が家計部門・企業部門を合わせて1400兆円程度あるので、何とか賄えるとはいえ、公的負債の残高は欧州の危ない国以上にあり、一刻も早く何とかしなければならない」

 「その主たる原因は、社会保障給付の増大にある。阪神淡路大震災の頃には社会保障給付は60兆円くらいだったが、今年は105兆円にものぼる。その3分の2は保険料、3分の1は公費。公費というと、あたかも税金で賄われているかのように聞こえるが、税収が落ち込んでいるため、ほとんどが公債で賄われている。そこで、高齢化が進む中で社会保障給付はどんどん増えていくため、社会保障給付の増加を抑えない限り、財政悪化は止められない」 

  ──財政再建の視点を踏まえると、今回の税と社会保障改革では、給付の増加抑制に加え、どのような点がポイントになるか。 

 「3つのポイントがある。給付の増加抑制がその一つ。さらに、今回の社会保障改革のもう1つの目的は、全世代型社会保障、つまり、高齢者の年金・医療・介護にウエートがあったものを、若年層の子育て支援や若者の能力開発、就業支援などにもう少し振り向けていこうということ」  

 「もう1つは、負担増。後世代の負担増化抑制のため、できるだけ早く消費税を上げて、現世代の中で負担をしていこうということ。2010年代半ばまでに10%まで上げるというのは、まず一歩ということ。少なくとも、それをやらなければ財政破たんがしのげない。その後、さらに5%、10%と上げていかないと1000兆円の長期債務を少しでも減らし、社会保障の持続可能性を担保することができない。」 

  ──6月末にとりまとめられた成案で足りない点は。 

 「2つ問題点がある。1つは、一体改革成案での給付の抑制が不十分。鍵は年金の削減だ。医療や介護は人の命に係わるので、ざくっと削れない。やはり一番抑制しなければいけないのは年金」

 「理由は2つ。理論的に年金はもともと、予想外の長生きリスクにした場合の保険のはず。今時、65歳が予想外の長生きとは言えない。日本ほど高齢化していない米国でさえ67歳、欧州でも67、68歳に引き上げを検討している。年金支給開始年齢の引き上げは早く実施すべきだ。もう1つは、支給開始年齢引き上げとともに高齢者に働いてもらわねばならない。日本は高齢者の健康状態が外国に比べてとても良いし、就労意欲も高い。60代男性の75%が就労意欲を持っており、他の先進国よりも高い。そういう意味で、高齢者の就業の条件は整っている。その点では、給付の削減と高齢者の雇用対策と一体で考えるべきものだ」 

 「給付の増加抑制とともに、もう1つの問題点は、消費税引き上げのスケジュールを早く確定すべきということ。引き上げ時期を2010年半ばよりもっと早く、2013年からでもいい。同時に、税率を10%にした後のことを示していない。その先、どうするのかということを示すべき。最終税率は先進国の相場からいうと、だいたい20%程度だろう。消費税20%の場合、社会保障として何ができるかを逆算して示すべきだ」 

  ──財政再建と社会保障改革の今後の展望をどうみているか。 

 「日本の財政はすでに危険領域に入っている。消費税を引き上げると景気にマイナスの影響はあるかもしれないが、もし国債金利が上がるとそれでは済まされない。長期金利が暴騰するわけだから単に景気が悪くなるというだけでなく、市場がクラッシュすれば財政は発散してしまう。家計部門・企業部門の黒字はまだあるので、国債の未達がすぐ起きるとは限らず、引き受け手はあるが、もし日本政府が借金を返せないと市場が思ったら、いくら家計部門に黒字があっても国債未達が起きかねない。最悪のメッセージは国債日銀引き受け。中央銀行に国債を引き受けさせるということは、国債を返すつもりがないことを市場にメッセージを送っているのと同じだ」 

 「また、なぜ日本の国債市場がまだ持っているかというと、消費税はまだ5%で、上げる余地が残っているから。しかし、もし政府が増税の意思がないとみられると、あるいは10%で終わろうとしているのではないかというのは、市場に対して非常に悪いメッセージになる。したがって、できるだけ早く10%にあげて、さらに言えば、その先もきちんと上げていくというメッセージを市場に送ることだ」 

 「今回、政府の出してきたものはまだまだ不十分だが、まずは成案をしっかりやることだ。不十分な内容だから先延ばしすると、もっと悪いことになる。実施した後で、さらに、給付の抑制や消費税の最終税率を示すなど、二の矢、三の矢を次々と打つべきだ」  

 (ロイターニュース 中川泉・石黒里絵;編集 宮崎亜巳)

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