(この記事は13日午後7時03分に配信しました)
[東京 13日 ロイター] - ブルベアファンドが相場に与える影響が注目されている。後場終盤に日本株が大きく動くことが多くなっているが、レバレッジETF(LETF、レバレッジ型上場投資信託)などのリバランス売買が一因になっているとの見方が出ている。薄商いのなかで短期筋が値動きを増幅させている面もあるという。ただ、米国に比べ日本のブルベアファンドの規模は10分の1程度に過ぎず、影響は限定的との指摘もある。
<後場に値幅広げる東京市場>
「LETFなどによる大引け売買を見越した短期筋の先物売買が一因だ」──ある国内証券ストラテジストは、ここ最近強まっている後場の激しい値動きをこう分析する。LETFとは、裏付けとなる株価指数の1日の変動に2倍など一定の倍数をかけた値動きをする上場金融商品。国内では野村アセット・マネジメントが運用するNEXT FUNDS日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信 が代表的だ。
LETFは、日々のポートフォリオ・リバランスのために、指数が上昇した場合に買い、下落した場合に売りという形で大引け売買を行う。指数が上昇すればするほどLETFによる大引けのリバランス買い需要が機械的に発生するため、この売買行動を予測する短期筋の先回り買いで値動きが増幅され、大引けにかけて一方向に振れやすい状況を作り出すとみられている。
過去3カ月の日経平均先物の時間別レンジをみると、午後2時から大引けまでは平均値で152.20円。寄り付き直後である午前9時─10時の153.80円は下回ったが、午前10時台(124.8円)や午後1時台(128.20円)と比べて、大引け間際の値動きは荒い。
BNPパリバ証券株式・派生商品統括本部長の岡澤恭弥氏は「デリバティブを使ってファストマネーが日本株をこれだけ占有してたことは今までなく、『夏枯れ』がより需給状況を反映しやすくなっている」としたうえで、「LETFはレバレッジの効いてる分、デルタポジションをとる必要があり、相場を動かす変動要因となり得る」と指摘している。
<米国ではLETFの売買手法を警戒>
米国でもLETFが市場に与える影響が警戒されている。米連邦準備理事会(FRB)がまとめた研究では、LETFの売買手法が2008年─09年の金融危機や欧州の債務危機の際に価格の振幅を増大させたという。またLETFの売買手法は1987年の株式暴落の一因となったポートフォリオ・インシュアランスという投資戦略に類似しているとしており、「フラッシュクラッシュ(瞬間暴落)」の要因になりかねないとしている。
FRBのTugkan Tuzunエコノミストは「LETFが株式市場のかく乱要因と証明されたわけではないが、ボラティリティの高い時間帯において、大幅な値動きに対応したLETFの売買の影響は、連鎖反応を引き起こす臨界点にまで及ぶ可能性がある」と指摘。加えて、LETFは一日の取引終了時にリバランス取引をするのが習慣で、これにより不均衡な価格変動が生じる恐れがあり、投資家の信頼を損ないかねないと警告している。
<国内では規模小さく、影響も限定的か>
ただ東京市場では、LETFを含むブルベア型ファンドの資産額が小さいため、相場変動を増幅するとの見方には懐疑的な声も出ている。
投資信託協会が発表している契約型公募投資信託の資産増減状況によれば、ブル・ベア型ファンドの純資産総額は13年6月時点で2407億円。アベノミクス相場が始まった12年11月の1335億円から約半年間で8割近く増加しているものの、200億ドル(約2兆円)以上の市場規模とされる米国のLETFと比べると10分の1程度に過ぎず、市場への影響は限られるという。
デリバティブ市場に詳しいゴールドマン・サックス証券エクイティデリバティブトレーディング部長の宇根尚秀氏は、オプション売り手(ネガティブガンマ)の証券会社が出す順張りヘッジに比べて、LETFによるリバランス需要は小さいと指摘する。「足元の順張りヘッジ需要は日経平均1%の変動で200─300億円程度と試算される。LETFによるリバランスはその数分の一程度」という。
またLETFは設定・解約があるため、相場に与える影響は単純ではない。日経平均やTOPIXのブルベアETFを運用するシンプレクス・アセット・マネジメント運用本部の棟田響氏は「理論的には指数が上昇すればするほど買い需要が増えるが、指数が上がっているほど解約売りも出やすい。日々のリバランス全体では指数が上昇しても売るケースがある」と話している。
杉山容俊 取材協力:植竹知子 編集:伊賀大記※
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