*この記事は13日午後9時1分に配信しました。
[東京 13日 ロイター] 東京電力9501.Tの賠償スキームに関する枝野幸男官房長官の発言が大手銀行を揺るがしている。枝野長官が13日午前の会見で、銀行団が債権放棄を行わなければ東電に対する支援は実行できないとの趣旨の発言をしたためだ。同日決まった賠償スキームでは、株主も含めたステークホルダーのすべてが免責されるというのが銀行団の理解だっただけに、政府サイドの意図を読みかねている状況になっている。
13日は午前中に政府が賠償スキーム案を正式発表し、午後には大手銀行の2011年3月期決算発表が相次ぐタイミングだった。決算会見に出席し、東電への対応を聞かれた各行首脳は言葉を慎重に選びながら対応。「枠組みが決まる前なので検討を開始していない。従って現時点で債権放棄は念頭にない」(みずほフィナンシャルグループの塚本社長)と述べるのが精一杯だった。
枝野長官は、記者が発した「(銀行から)債権放棄がなされない場合でも国民の理解を得られると思うか」との問いに対して、「国民の理解の得られるかといったら、得られることはないだろう」と回答。直接、「債権放棄」という単語は発していないが、債権放棄を求めている内容と受け取るのが自然だ。
この発言を受けて、三菱UFJフィナンシャル・グループ8306.T、三井住友フィナンシャルグループ8316.T、みずほFG8411.Tなど大手銀行の株価は急落した。
東電の銀行からの借り入れは、震災後の緊急融資で1.9兆円。震災以前の分は約2兆円ある。枝野官房長官は、「債権放棄」について震災前と後を分けて考える必要があるとの認識を示しているが、大手行のエクスポージャーは決して小さくはなく、市場の動揺を誘ったといえる。
もともと東電の支援に当たって、政府は東電に対して金融機関への協力要請を条件にしている。しかし、銀行サイドは「すでに実施した緊急融資が協力の中身だ」(融資銀行幹部)とのスタンスで、債権放棄どころか「金利減免や返済猶予などの条件緩和もあり得ない」(同)という考えだ。しかも、優先・劣後関係を考えれば、株主責任さえ免責される今回の東電救済スキームの中で「一足飛びに貸し手に損失を被れというのは、グローバルな基準からは考えられない」(外資系証券幹部)というのが、市場社会の常識でもある。
もっとも銀行団の一部は、今回の政府案策定には自らかかわっていった面もあり、今更政府の対応をむげにはできないという事情もある。