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コラム:日米貿易収支が告げる「ドル105円」の足音=亀岡裕次氏

日本では自国の貿易収支の動向に関心が集まりがちだが、ドル相場の行方を占うためには、米貿易収支の動向もきちんと押さえておく必要がある。

3月14日、大和証券のチーフ為替ストラテジスト、亀岡裕次氏は、日米購買力平価から見て1ドル=105円程度まで円安・ドル高が進行する可能性は十分にあると指摘。提供写真(2013年 ロイター)

変動のタイミングは必ずしも一致しないものの、米国の貿易収支とドル相場の動向には強い相関が認められる(同収支はドル円よりもドル実効為替との相関が強い)。実際、2011年から12年にかけてドル相場が反発した一因には、米貿易収支の改善がある。今後も、米貿易収支の動向がドル相場の重要な変動要素の一つとなるだろう。

米貿易収支を、石油関連の実質貿易収支、非石油関連の実質貿易収支、交易条件(=輸出物価/輸入物価)の3要因に分けた場合、12年の収支改善をもたらしたのは石油関連収支と交易条件の改善である。11年にかけてドル安が進んだことによって価格競争力が向上して貿易収支が改善したのではない。景気回復に伴う輸入増により、非石油関連収支は悪化傾向を続けている。だが、その収支悪化効果よりも、石油関連収支と交易条件の改善効果が大きいのだ。

背景には、技術進歩により米国でシェールガスなどの非在来型エネルギーの生産が拡大し、エネルギーの自給率が高まり、輸入依存度が低下していることがある。こうした動きは今後も長期にわたって続き、米貿易収支の改善に寄与するだろう。また、非在来型エネルギーの生産拡大は、原油や天然ガスなどの在来型エネルギーの価格低下に寄与し、輸入物価の低下を通じて米国の交易条件を改善させる一因にもなっているのだ。

<世界景気回復・商品高により米貿易収支悪化・ドル安も>

ただし、世界的に景気回復度が高まり、エネルギー需要が増えた場合には、在来型エネルギーの価格が上昇し、米国の交易条件が悪化する可能性もある。

足もとでは、「財政の崖」の大部分が回避されたことなどにより、13年1月と2月の企業景況感は改善したが、国際商品市況は中国の住宅価格抑制方針と2月経済指標の鈍化、イタリアの財政信用不安などの影響を受けて下落している。もし米景況感が強い一方で国際商品市況が弱い状況が続くのであれば、ドルが買われ、資源・新興国通貨が売られて、ドル実効為替は上昇しやすいだろう。

しかし、米国の景況感は強い一方で世界の景況感や商品市況は弱いという状況が長引く可能性は低い。世界的にも金融緩和の影響やリスク選好効果などから多くの国で景況感が改善し、商品市況が上昇する可能性が高い。

その場合、交易条件の悪化により米貿易収支が悪化し、ドルが売られ、資源・新興国通貨が買われやすくなるだろう。世界的に景気回復が強まると、市場はリスク選好度を高めるので、その面からもドルは資源・新興国通貨などに対して下落しやすくなる。

<リスク選好の強まりで対円ではドル高持続へ>

では、ドル円レートはどうか。リスク選好下では、ドル売り以上に円売りが強まりやすいことは繰り返し述べてきた。いずれは06―07年のように、リスク選好下でドル実効為替は下落するもののドル円は上昇する(ドル高・円安)局面を迎えることになるだろう。市場のリスク許容度が上昇を続ける限り、ドル円やクロス円は上昇(円安)を続けやすい。

今回、米国においては金融緩和政策と景気回復傾向を背景に、金利が低水準にとどまりながら株価が上昇する「過剰流動性相場」の様相を呈してきたため、リスク許容度を示すイールド・スプレッド(=国債利回り-株式益回り)の上昇は限定的なものにとどまっている。今後、景気回復度が強まるにつれて、金利の上昇を伴いながら株価が上昇する「景気回復相場」へと移行し、リスク許容度はさらに上昇する可能性が高い。

ドル円が下落に転じるとすれば、米国の金利が低下するか、株価が下落するかして、リスク許容度がピークアウトするときだろう。たとえば、前回の景気拡大局面では、07年7月に米金利が低下に転じるとともにリスク許容度とドル円がピークアウトし、やや遅れて同年10月に米株価が下落に転じた。

今回は米金利がまだわずかに上昇したにすぎず、金利や株価がピークアウトするような状況には程遠い。リスク許容度のピークアウトと円高への転換を警戒するのは、米国で金融引締め(期待)とともに金利上昇が大幅に進んでからだろう。

<日米購買力平価から見た円安進展の目途>

また、過去には日本の貿易収支が米国に比べて改善し始めると、1年以内に円高・ドル安方向へとトレンド転換するケースが多いが、今のところ日米の貿易収支にそうした変化は見られない。米国は自国生産拡大によりエネルギーの輸入依存度が低下する一方、日本は原発停止の影響によりエネルギーの輸入依存度が上昇したため、日本の貿易収支が米国に比べ相対的に悪化している。

日本は、燃料・鉱物品や農産物などの一次産品の輸出比率が米国よりも低く、一次産品の輸入比率が米国よりも高いので、商品市況が上昇した場合は米国以上に交易条件(=輸出物価/輸入物価)と貿易収支が悪化しやすくなる。

今後、日本の貿易収支が相対的に改善するとすれば、円安・ドル高の進行によって日本の価格競争力が向上した場合だろう。1985年9月のプラザ合意以降、87年を基準とする日米の相対購買力平価(生産者物価指数に基づく)からプラス30―40%程度の乖離(かいり)率に達するまで円安・ドル高が進みやすい。

ドル円の87年基準購買力平価からの乖離率がプラス40%に達した07年当時と比べ今回は、世界経済成長率の相対的な劣後がリスク選好と円安を抑制する要因だが、日本の相対的な貿易収支悪化やインフレ期待上昇(実質金利低下)は円安を促進する要因である。

したがって、87年基準購買力平価からの乖離率がプラス40%に達する水準まで円安・ドル高が進行する可能性は十分にあるだろう。その水準は足元では1ドル=105円程度であり、経済協力開発機構(OECD)が算出している日米の絶対購買力平価(モノ・サービス価格の直接比較に基づく)とほぼ同等である。アベノミクスで日本のインフレ率が上がるならば、日米購買力平価が年々、円高方向に変化する動きも弱まるだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の投資戦略部担当部長・チーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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