February 8, 2012 / 3:01 AM / 7 years ago

〔焦点〕経常黒字10兆円割れ、エネルギー・円高・高齢化が招く赤字転落リスク

 [東京 8日 ロイター] 2011年の経常黒字が15年ぶりに10兆円を割り込んだことで、経常赤字転落への不安が高まっている。巨額な所得収支で経常黒字は当面確保される見通しだが、震災後のエネルギー輸入の増加、高齢化による医薬品の輸入増、工場の海外移転など構造的な変化も小さくない。円高が進行する場合には10年以内の赤字転落が視野に入るとの試算もある。経常黒字縮小は国内での国債消化の懸念などを強めるため、財政再建など政府に早めの対応を促す声も多い。

 

  <12年も経常黒字は低水準の見通し>

 

 2011年の経常黒字は9兆6289億円となり、1996年以来の10兆円割れとなった。1月も、すでに上中旬の貿易赤字幅が1兆5600億円と過去最大となり、単月で経常赤字となる可能性が高まっている。エコノミストからは、世界景気減速の影響などもあり、経常赤字に転落する可能性が取りざたされている。

 

 経常黒字縮小は震災後の代替輸入や原油・LNG輸入増と価格上昇、タイ洪水による輸出減少が重なったことで貿易赤字が膨らんだことが大きな要因だ。4月以降全ての原発が停止する可能性があり、引き続きエネルギー輸入の増加傾向が予想されている。世界景気が回復傾向となっても国際商品市況は上昇しやすく、実質輸出のプラス寄与と輸入物価のマイナス寄与が相殺し合うとして「今年下期に貿易収支が黒字に戻る可能性は低い」(シティグループ)という。

 専門家の間では、12年も貿易赤字が続く可能性があり、経常黒字も引き続き10兆円割れとなるとの見方が出ている。リーマンショック前の07年には経常黒字25兆円弱を稼ぎだしていたが、そうした水準に戻る見通しはほとんどない。

 

 経常赤字に陥らなくても、黒字の縮小は経済の不安定化につながる。海外経済の急減速や急激な円高などのショックが起これば黒字が吹き飛びかねない。経常赤字に転落すれば、国内マネーの余力は縮小し、巨額な国債のファイナンスなどに懸念が強まる。「12年以降の黒字額は10兆円を下回る可能性が高く、外的ショックに対する脆弱性が意識される」(RBS証券)という。

 

  <所得収支食い潰す貿易赤字に陥るか>

 

 その先の中長期的な経常収支見通しについては、専門家の間でも黒字維持か赤字転落かを巡り意見は分かれている。

 黒字維持可能とみる専門家は、今般の貿易赤字が震災などの一時的要因から生じたものだとの見方だ。日本は対外投資からの所得収支が11年は約14兆円と安定した黒字を稼ぎだしており、これを食い潰すほどの貿易赤字拡大は考えにくいという。11年の貿易・サービス収支の赤字は3.2兆円であり、所得収支には大きな余裕がある。さらに、円高を活用した日本企業による海外投資の拡大が今後の所得収支の拡大をもたらす点もプラス要因とみる。

 

 一方で、赤字化を予想する専門家は、貿易赤字が一時的ではなく、さらに拡大するとみている。

 みずほ総研の試算では、原発が全て停止し、原油やLNGの輸入増に加えて価格が毎年1バレル5ドル程度上昇すれば、貿易赤字が恒常的に2兆円弱拡大する。さらに、円高が毎年5%ずつ進行すると、輸出競争力も低下するほか、所得収支の受取額が大きく目減り、10年以内に経常赤字に転落するとみている。

 クレディ・スイス証券では、国際商品市況や円高水準が現在と同程度で推移する場合でも16年度にはGDP比で0.2%の経常赤字になるとしている。要因は輸入増にある。エネルギーだけでなく、高齢化に伴う医薬品の輸入急増や空洞化に伴う輸入増など構造的要因があるためだ。

 貿易赤字を補う所得収支も拡大ペースが鈍るとの指摘もある。米独債の著しく低い金利水準が継続することや株式配当金の低迷により、所得収支の黒字幅が縮小するリスクがあるという。

 

  <カギ握る円高>

  

 当面、貿易収支や経常収支に大きく影響する要因は、輸入サイドのエネルギー価格とみられているが、長い目でみれば、円相場が大きく影響する。

 みずほ証券は円高が貿易収支の今後の展開を議論する場合のカギを握ると指摘する。韓国との比較ではリーマンショックが生じた08年中の平均値と現在を比較してみると、日本円は3割も増価しているのに対し、韓国ウォンは1割減価。「輸出価格競争力で我が国が歴然として不利な状態に置かれている」。実際、2010年のドル建て輸出額は08年対比で韓国は1割増加している一方で、日本は1%減少している。

 もっとも本来の経常収支と為替相場の関係から言えば、黒字縮小は円安要因となる。そうした調整機能が働けば、一方的な円高や経常赤字転落といった事態は回避されるとの見方もある。

 

 経常黒字が財政ファイナンスを担っている以上、日本にとって安定的な経常黒字を生み出すことは極めて重要だ。このため、政府に対して「対外バランスが悪化した場合には財政ファインスに支障が出るリスクがあることを踏まえ、長期的な財政健全化策を講じていくことが必要」(みずほ総研)と危機意識を促す声も強まっている。

 

 (ロイターニュース 中川泉;編集 石田仁志)

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