12月18日、大和証券のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト、木野内栄治氏は、2016年に長期上昇過程への転換点を迎える日本株は日経平均2万8000円をトライしてもおかしくないと指摘。提供写真(2015年 ロイター)
木野内栄治 大和証券 チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト
[東京 18日] - 2016年は消費増税を前に株は天井との見方が多いだろう。しかし、筆者は1億総活躍政策が軌道に乗り、新たな金融政策が講じられ、日本経済や日本株がイノベーションを夢見ることができる真の長期上昇過程に入る転換点だと考えている。
16年末に日経平均株価は2万8000円をトライしてもおかしくないと計算している。
<名目GDP600兆円は夢ではない>
確かに、これまでのアベノミクスの主な目的は物価下落の阻止や需給ギャップの解消で、これらはほぼ達成された。現在の失業率は3.1%(10月)と生産能力向上の余地は少ない。よって、従来のアベノミクスは役割を終え、16年は旺盛な公共投資も効果的な金融緩和も行われず、企業業績の増益率が鈍化するとの見方を理解はできる。特に量的金融緩和に関しては現状の延長は限界を迎えつつある。
こうした前提で考えると、16年の株価の上昇は、春か最長でも参議院選挙(7月頃)までで、日経平均は最大2万3000円を上限とする短期的な上昇相場を想定することになろう。
日経平均のチャート上のフシは1996年の2万2666円で、16年度の経常増益率の1桁後半を15年の高値に掛け合わせても2万3000円まで届かない。消費増税後の景気悪化への警戒から16年後半から調整が始まり、黒田東彦日銀総裁、安倍晋三自民党総裁の後任が決まる18年まで経済や相場は動かないとの見方になろう。
しかし、それは1億総活躍政策の意味と実現性を見誤った見通しだと思う。16年に女性活躍の定着が見通せる可能性は高い。日本経済の供給能力や成長率は上昇が見込め、数年後には自動運転車やそれに先立つロボットの普及などイノベーションが花開く可能性は高い。
中でも自動車について、17年央から強化される米カリフォルニア州の規制や、その後の世界中での厳しい規制を前に、16年にはプラグインハイブリッド車の販売が加速する見込みだ。単なるハイブリッド車と比べて電池の搭載量が桁違いに増えるので、電池の技術革新の進展が期待できる。
高性能電池の利用価値・波及効果は大きい。トヨタグループの創始者、豊田佐吉は、かつて画期的な電池開発に現在の価値で100億円もの懸賞金を掛けた程だ。現代の「佐吉電池」の開発は無人機ドローンやパワースーツなどを実用的な物にしよう。
さらに、車の自動運転技術や人工知能が進む道筋は見えたが、これらはロボット・テクノロジーの中でも極めて高度。その開発の過程で多くのロボットが利用できるようになる。次の革命的な成長産業はロボット・テクノロジーだろう。そのカギとして電池に注目だ。
さて、こうしたイノベーションが花開くと同時に、人件費は抑えられ物価抑制圧力となる。もう物価上昇や需給ギャップの縮小に狙いを絞ったこれまでの経済政策から、成長の天井を引き上げる政策に変わったのだ。20年頃の名目国内総生産(GDP)600兆円は夢ではない。
まず、ポイントとなる大家族化政策は軌道に乗る可能性が高い。大家族化とは親子孫の3世代が、同居や近居をすることで、女性の社会での活躍と子育て・介護が両立する妙案だ。アンケート結果を見ると、6割程度の人々が親の世代との同居・近居が理想の家族形態と答えており、高齢者の老後資金の使途としても希望に沿う。
16年度後半から住宅取得のための贈与に3000万円まで非課税枠を広げるなど住み替えの政策は手厚い。老後の蓄えの多くを生前贈与することは、同時に老後の面倒も任せるということで、大家族化を促すことになろう。
相続税軽減メリットを得られるため、住宅は消費増税前の駆け込み購入の反動減への不安は少ない。筆者は住宅関連株に注目している。15年は結婚披露宴の単価が上昇し、芸能人の結婚のニュースが多かった。これらは日本全体の婚姻数の先行指標となることが多いので、うまく行けば16年は結婚ブームや、その先の出生率向上の可能性すらある。
<ドル円は来年末に135円到達も>
労働市場に復帰する人々が増えると人件費や物価が上がっていく可能性が後退するので、新たな金融緩和策が導入されよう。筆者は消費増税1年前の16年4月頃をメドに、短期金利を長期的に低くとどめることと、長期金利の水準にコミットするなどの政策発動を想定している。1940年代に米国でとられた長期金利の釘付け政策の再現だ。需給ギャップを埋めるためのバズーカ砲から、長期的に労働市場に復帰する雇用を吸収する政策に転換する必要がある。
こうした金融緩和によって16年末までに最大1ドル=135円程度のドル高を期待している。円安のデメリットが大きい内需企業も、主に原油安によって景況感が支えられよう。インフレに抵抗感が強い高齢者は大家族化政策で将来の不安感や円安デメリットを相殺しよう。
こうした状況なら中小企業にも恩恵が回ろう。16年度の企業業績は、経常増益率で現在予想されている1桁台後半から、円安によって2桁台前半に引き上がろう。これによって、日経平均は1000円程度の上乗せが期待できる。
新たな金融政策が導入され、1億総活躍政策が軌道に乗るなら、雇用を重視したかつてのイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長のポリシーと同じで、潜在成長率や株価収益率(PER)を引き上げよう。
11―13年は日米のPERはほぼ変わらなかったが、イエレン氏の議長就任後は最大3倍ポイント程度、米国が上回るようになった。同じことが日本で起きれば日経平均は4000円強の上乗せが期待でき、16年末に2万8000円程度が期待できる計算となる。96年高値2万2666円を上抜けると、チャートのフシは2万6000―2万8000円だ。
この予想は、冒頭で指摘したコンセンサスの2万3000円とは意味が全く異なる。2万3000円は前述の通りアベノミクスが需給ギャップを埋めるだけの短期で終わる場合の高値予想水準だ。東証株価指数(TOPIX)も長年のフシである1800ポイント台を上抜けない。なお、過去に1800ポイント水準に達した場面は2000年のゼロ金利解除、06年の量的緩和解除など、今から見れば金融政策は失敗を続けてきた。
TOPIXの1800ポイントや日経平均の2万3000円で上昇場面が終わるなら、将来に禍根を残そう。例えば07年など、円安株高後に日本企業が国内で行った大きな投資は、政策が短期で終わり経営環境が悪化、多くが失敗となった。研究開発費の7割を担う企業の業績を維持しないと技術革新は遠のく。長期間、良好な経営環境を維持することは重要だ。
なお、16年の日本の景気は回復が期待できる。リーマンショック後や東日本大震災後に大量販売されたエコカーの5年目・7年目の車検を迎え、生産活動はペースアップしよう。消費増税前の駆け込みにも期待。中国景気も乗用車を中心に回復しよう。2年サイクルの中で、世界的にハイテク部門の戻りもあろう。
リスクは海外金融市場。人民元切り下げと、米連邦公開市場委員会(FOMC)投票メンバーの交代に注意が必要だ。また、米大統領選挙の年の日本株は、春先堅調でも年終盤に向けて軟調となりやすい。もちろん、日銀が今回の補完策を超える大規模なレジームチェンジ・新たな金融政策を実施すれば、16年末まで堅調だろう。
*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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