Commentary

コラム:スコットランド独立、英EU離脱の恐れも=カレツキー氏

コラム:スコットランド独立、英EU離脱の恐れも=カレツキー氏
 9月12日、スコットランドの分離独立が現実化した場合、世界経済と金融市場にとって重大な問題は、欧州連合と特に英国にどんな影響が及ぶかという点だろう。写真は英国旗とEU旗。ロンドンで2013年1月撮影(2014年 ロイター/Stefan Wermuth)
アナトール・カレツキー
[12日 ロイター] - スコットランドの住民投票をめぐる直近の世論調査では独立反対派がやや盛り返したとはいえ、18日の投票結果が以前には考えられなかった英国の分裂を引き起こす可能性はなお明確に残っている。
スコットランドの分離独立が現実化した場合、世界の企業や投資家にもたらされる最大級のリスクは、スコットランドが採用する通貨や、北海油田収入と英国の債務に絡む避けがたい論争に起因するような経済的諸問題の中には存在しない。これらはスコットランドにとって重要な課題であり、金融機関やシンクタンクによってこれまで大いに議論もされてきた。それでも、世界経済と金融市場にとって重大な問題は、欧州連合と特に英国にどんな影響が及ぶかという点だろう。スコットランドが分離しても英国は依然として世界6位の経済規模だ。
わたしが前回のコラムでも論じたこうした政治的リスクは、4つの疑問に分解できる。つまり(1)スコットランド独立なら2015年5月の総選挙までの英国の政治・経済運営はどうなるか(2)その選挙結果にどう影響するか(3)一連の混乱が英国と欧州の悩ましい関係にどう作用していくか(4)スコットランド独立に向けた動きは他の欧州の分離主義を活発化させるか──ということだ。
そして4つの疑問に対する答えはすべて、1カ月前にほとんどの人が予想したよりも大きな波乱をもたらすことを確実に示している。
まず他の欧州の分離主義に関しては、答えは一目瞭然。もしもスコットランド住民の独立賛成が多数と占めれば、スペイン政府がカタルーニャやバスクの地域住民に同じような民主的権利を認めない姿勢を続けるのは極めて難しくなる。それだけでなく、ベルギーではオランダ語圏の分離主義者からの圧力が強まり、イタリアの北部同盟は再び勢いづく可能性がある。
英国に目を戻せば、政治的な影響はより複雑といえる。18日の住民投票後に英国が分裂することになれば、キャメロン首相は住民投票の実施を推進し、後になって考えればまったく向こう見ずだったように見える危険な状況を不必要に招いた責任を取らなければならなくなる。
スコットランド国民党(SNP)が英国内での自治権拡大という「第3の選択肢」を提案していたにもかかわらず、スコットランド住民に英国内にとどまるか連合王国を解消するかの二者択一を提示すると決めたのが、ほかならぬキャメロン氏だった。同氏は、住民投票の質問で英国にとどまることがまるでマイナスの選択肢であるかのように説明されるのを容認し、投票年齢の下限を18歳から16歳に引き下げるという論議の的になったSNPの決定も受け入れた。
これらすべての理由に加えて、保守党内で強い勢力を持つ反EU派にキャメロン氏の人気がないことから、今回の住民投票で独立賛成派が勝利すれば、同氏は大きな辞任圧力に直面しそうだ。
保守党は、急に路線を転換しリーダーに反抗してきた歴史を持つ。1990年9月に、当時のサッチャー首相の政治基盤が多少なりとも脆弱だとさえ想像した人はいなかったが、その3カ月足らず後で彼女は退陣してしまった。
もっともキャメロン氏が辞めても辞めなくても、英政府は総選挙までレームダック状態に陥ってしまう。
政治課題の面で唯一問題になるのは、スコットランド独立の具体的な条件と、英国解体を進めていく上でのキャメロン政権の驚くべき「お気楽ぶり」だろう。
有権者や投資家、企業がようやく気付き始めた政権のこの姿勢は、15日にヘイウッド内閣書記官が議会で行った発言で端的に示された。ヘイウッド氏は、各省庁がスコットランド独立の可能性に対して何の備えもしていないと平然と述べたのだ。
こうした事態は、来年の総選挙とその後の政策、特に欧州にとってどのような意味合いを持つのだろうか。
今から来年5月まで政権の足取りが覚束なくなって内輪もめに終始すれば、現在の連立政権が勝利するとは想像しがたい。ましてスコットランドが英国を見限るという事態が示唆する国家的な失策とその衝撃を考えればなおさらだ。
来年は労働党が主導する政府が発足する可能性は70─80%程度まで高まるだろう。こうした展開は、英国やポンドに投資している海外投資家にとってはかなり警戒を要する。労働党は増税やロンドン金融街シティの規模縮小、非居住者への税制優遇措置の廃止などを選挙戦で打ち出す可能性が大きいからだ。
さらに悪いことに、労働党主導の政権が誕生しても公約を実行する政治的な正当性を欠くことになり、スコットランドの分離条件の交渉力はずっと弱まってしまう。なぜなら労働党が議会で多数を占められるかどうかはスコットランド地域の議員がどれだけ当選するか次第であり、彼らは2016年には英国から去っていく。
それゆえに憲政上の危機が到来するのはほぼ避けがたいように見受けられる。労働党は、スコットランドが正式に独立する2016年3月よりも後に、もう1回総選挙を行うと約束しなければならないだろう。
これは16年半ばの再選挙まで2年間にわたって、英国に未曾有の政治的な混乱が生じ、企業や投資家にとっては経済政策の不確実性をもたらす。保守党が再選挙までにEUからの離脱を強力にコミットすれば、今度は労働党が敗北するのはほぼ確実とみられる。
そこで欧州に関する問題に行き着く。スコットランドが英国から独立すれば、保守党陣営の多くは、議会を掌握するのは確実だとみなすだろう。というのもスコットランドから選出され、英国を去る議員59人のうち保守党メンバーは1人だけだからだ。そうなると保守党は、草の根レベルで最も声が大きいEU懐疑派に一層接近していくことが確実視される。
保守党は既に、英国のEU加盟条件の再交渉とEUにとどまるべきかどうかを問う国民投票の2017年の実施を約束している。同党が来年5月の選挙で勝利するか、あるいは16年に政権に返り咲くかどちらであっても、恐らくはスコットランド抜きの英国における「自然な」多数派の後押しを受け、EUやフランス、ドイツでさえ受け入れられないようなEU加盟の条件を要求するだろう。
このようにして18日の投票でスコットランド独立が決まれば、それは最終的に英国のEU離脱に向けた連鎖反応の始まりになりそうだ。
*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。