9月17日、米FRBの連邦公開市場委員会メンバーによる政策見通し分布をあまりにも長く見続けると幻覚が見えてくると、ジェームズ・サフト氏は指摘する。写真は会見するFRBのイエレンFRB議長(2014年 ロイター/Gary Cameron)
James Saft
[17日 ロイター] - 昔ヒッピーたちが好んだオプ・アート(錯覚を利用した抽象絵画)さながらに、米連邦準備理事会(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの政策見通し分布(ドット・チャート)をあまりにも長く見続けると幻覚が見えてくる。
17日公表されたFOMC声明は、ハト派的と解釈するのが筋だ。事実上のゼロ金利を「相当な期間(considerable time)」維持するとの文言は残った。これは一部では利上げが少なくとも半年後であるという簡潔な表現(イエレンFRB議長はこの文言の意味するところを延々と論じたが、われわれに大いなる具体性をもって解き明かしてはくれなかった)と受け止められている。
声明の中では、特に「労働資源の著しい活用不足が残存している」との言及や、物価上昇率がFRBの目標を「下回って推移している」といった新しい表現も、ハト派的な要素として挙げられよう。
それでもドット・チャートは、一部の投資家を利上げ開始時期が予想より早まるのではないかという不安に陥れた。
「相当な期間」という文言は、来年6月までは利上げがないという示唆かもしれないが、それはドット・チャートとは相いれない。ドット・チャートでは来年末のフェデラルファンド(FF)金利は平均1.27%と、6月時点の見通しの1.20%から切り上がった。しかし現在のFF金利が0─0.25%であることを考えると、来年6月に利上げを開始した場合、1回に25ベーシスポイント(bp)という形で円滑に利上げを進めようとすれば非常に忙しくなるだろう。
こうした金利政策と、FRBの来年の成長率見通しが切り下がったことなどとつじつまを合わせるのも容易ではない。
一方でいつものようにドット・チャートのFF金利上昇は先々にしわ寄せされており、今回初めて示された2017年の平均は3.54%だった。
この金利正常化の約束にはやや疑わしさがあるが、今はまだそれよりもずっと前の段階だ。結局のところ8月の消費者物価指数は下落し、大勢としてもこのところ下向きで推移している。同時に雇用はそれなりに増加しており、整合性が取れていない。
ドット・チャートはもしかしたら、FOMC内の意見の食い違いを反映しているのかもしれない。今回の政策決定でも2人のメンバーが反対票を投じた。
米経済が利上げと金利正常化への備えが出てきていることを示す材料は何もないし、それを期待しては間違いを犯すだろう。金融市場の利上げ見通しがドット・チャートの示唆を下回り続けている点にも留意しなければならない。そうした展開はこれからも続くとみるべきだ。
<物価と雇用の現実>
FRBが抱える一番の問題は、2つの潜在的に矛盾する願望を同時に抱いているという点にある。1つはできれば次の景気後退までに政策金利を正常化することであり、もう1つはある程度の強さを備えた、労働市場と物価上昇率が2%近くで推移する世界を実現することだ。
より具体的に言えば、FRBは金融市場に利上げを納得してもらう態勢を整える必要があるが、それは決して、あるいは少なくとも「相当な期間」は達成できないかもしれない。
現在の金融政策がFRBにもたらすコストを考えてみれば、それほど高くはない。今のところ米国はドル高に耐えられるし、低金利はバブルを醸成している可能性はあるが、これは現在の苦しみとは相対立する概念である将来のコストだ。
借り入れコストは最近やや上がったといっても絶対水準は低い。低インフレで資産価格上昇が続いているという状況においては、多くの投資家がFRBに対して不安を持つどころかむしろ、全般的な経済の活況と2%の物価上昇率はもたらしてくれないとしても少なくとも資産を膨らませてくれる力はあるというFRBへの信頼を感じつつある。
こうした点からすると結局はフォワードガイダンスの指摘通り、相当な期間という文言は、経済状況に左右されるという事実に行き着く。FRBが物価上振れと雇用の急増を予想し始めれば、相当な期間というのは完全に消滅する。FRBは利上げをためらわないだろう。あるいは政策金利水準自体は低く抑え続ける可能性がより大きい。それこそが雇用創出と物価安定という2つの使命達成に必要なのだ。
そこで経済見通しを注視する理由が出てくるわけだが、来年に関しては楽観色が後退しており、政策金利見通しの価値は割り引かれる。
現時点では物価上昇率は低過ぎるし、雇用は弱過ぎる。雇用は少しずつ改善しつつあるものの、物価はどこまでも低調だ。こうした環境が変化するという理由を見出さない限り、ドット・チャートが示すような利上げ幅を当てにした行動は慎むのが最善の策といえる。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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