コラム:インド経済の追い風なく、ルピー再下落も=村田雅志氏

ロイター編集
コラム:インド経済の追い風なく、ルピー再下落も=村田雅志氏
10月12日、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのシニア通貨ストラテジスト、村田雅志氏は、インド政府による経済改革が今後続くとしても、ルピーは上値の重い展開が予想されると分析。提供写真(2012年 ロイター)
村田雅志 ブラウン・ブラザーズ・ハリマン シニア通貨ストラテジスト
[東京 12日 ロイター] インド政府は9月中旬以降、「ビッグバン」と呼ばれる経済改革を相次いで打ち出している。
9月13日には、財政赤字の削減を目的にディーゼル燃料の小売価格を引き上げるとともに、補助金付きLPG(家庭調理用ガス)の購入上限を1世帯当たり年9本から6本に削減することを決定。翌14日には、複数ブランドを扱う総合小売業への外資出資比率上限を51%とする外資開放と単一ブランドへの外資出資上限撤廃を閣議決定し、20日には実務的な条件や手続きを示した外国直接投資政策の見直しを発表して即日施行した。
今回打ち出されたインド小売業の外資参入解禁は、実は昨年末の閣議決定後に連立与党の反対を受けて撤回したものとほぼ同じ内容だ。しかし、インドのシン首相は、非効率な流通システムの改善と構造的な食品インフレの緩和が期待できるとして反対勢力を押し切った。また、この他にも資源系の国有企業4社、金属鉱物貿易公社(MMTC)、オイル・インディア< OILI.NS >、ナショナル・アルミニウム(NALCO)、ヒンドスタン・コパーの一部民営化方針も決定した。
10月に入っても改革は続いている。4日には、インドの保険業に対する海外企業の出資比率の上限を現行の26%から49%に引き上げるほか、年金基金市場を初めて外資に開放する規制緩和策を閣議決定。チダムバラム財務相は、外国勢のインド年金基金への出資上限を保険と同様に49%に設定する意向を示している。
インド政府による経済改革策の発表後、インドルピーは上昇基調で推移した。ルピーは9月13日時点で1ドル=55ルピー台半ば近辺で推移していたが、インド政府が小売業の外資開放を閣議決定すると54ルピー台前半まで急騰。その後もルピーは対ドルで上昇を続け、10月5日には51ルピー台前半と今年4月以来のルピー高水準に達した。
ただ、ルピーは市場のセンチメントに左右されやすい点に注意が必要だ。現に欧米株が軟調に推移するなど市場のリスク回避姿勢が強まった10月8日以降、ルピーは売りに押される展開となり、12日時点(日本時間午前11時現在)で1ドル=52ルピー台半ばで推移している。
インド政府による経済改革を前向きに評価する見方はあるものの、今後のルピーは伸び悩みが続くと予想される。インド景気の減速、インフレの高止まり、経常赤字と財政赤字の「双子の赤字」の慢性化といったインドのファンダメンタルズは依然として弱いためだ。
国際通貨基金(IMF)は10月9日に発表した世界経済見通しでインドの2012年成長率見通しを7月時点の6.2%から4.9%に下方修正。2013年の成長率見通しも6.6%から6.0%に引き下げた。インド中銀による金融緩和の遅れが内需拡大を抑制しているほか、外需についても欧州や中国の景気減速を背景にインドの成長率は低迷を続けるとの見方が根強い。
景気の減速感が強まっているなら利下げなど金融緩和による景気刺激が期待されるところだが、インドの場合、インフレ率が高止まりしており、インド中銀は利下げに消極的だ。インド財務省は8日発表の報告書の中で、モンスーン期の降雨量不足で食品価格が大幅に上昇していることを主因にインフレが2013年初めまで7.5―8.0%の水準で高止まりを続けるとの見方を示している。
インド中銀は、9月17日の会合で預金準備率を25ベーシスポイント(bp)引き下げ4.50%としたものの、政策金利を8.00%に据え置いた。インド中銀は同国景気の下方圧力は強まっているもののインフレリスクも続いていると声明で指摘していることから、金融緩和を大きく進めることは期待しにくい。
<改革期待が裏切られるリスク>
インド政府による経済改革が今後、変更を迫られる可能性も否定できない。下院で過半数割れしたインド連立政権は、インド社会党などの閣外協力を得るため経済改革の軌道修正を迫られる可能性がある。また、インド政界の影の実力者で、シン首相が所属する最大与党・国民会議派の総裁を務めるソニア・ガンジー氏は貧困層の支援を重視していると言われており、小売業の外資開放により零細商店の倒産が増えるようだとシン首相に対する支援姿勢を変える恐れもある。
また、インドの格下げリスクの高まりもルピーの下押し圧力を強めるだろう。格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は10月10日、インドの信用格付けを今後、引き下げる可能性が大きいと指摘。すでに同社は4月時点で格付け見通しを「ネガティブ」に変更しており、6月にはインドがBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中で最初に投資適格級の格付けを失う可能性があるとの見方を示していた。
ルピーが上昇基調を続けるためには、インド政府による経済改革姿勢が今後続くとしても、同国のファンダメンタルズや市場センチメントの改善という追い風が必要となる。ただ、残念ながらこうした追い風を期待するのは難しい状況だ。
ルピーの上値は、10月5日に記録した最高値水準であり、かつ2月末から6月下旬のルピー安相場の76.4%戻し水準でもある1ドル=51ルピーで抑えられる展開が予想される。一方、下値は200日移動平均の53ルピー台前半が一つの目安となるだろうが、ユーロ圏債務危機などで市場のリスク回避姿勢が強まる展開となれば再び1ドル=56ルピー近辺まで売られる状況も視野に入れるべきだろう。
*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのシニア通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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