11月20日、泥沼化するシリア情勢への介入に欧米が消極的な姿勢を見せる中、新たな外交アプローチを模索する中国の存在感が高まりつつある。写真は8月北京で撮影(2012年 ロイター/Jason Lee)
By Ian Bremmer
[20日 ロイター] 国際外交の舞台で今月、興味深い出来事があった。泥沼化したシリアの内戦を終結させるため、ある国家が和平案を提示した。この国は外交交渉に頻繁に登場する国ではない。米国でも、欧州の国でも、シリアの隣国でもない。
この国には、「世界の警察」の役割を演じた経験はない。しかし、今の世界には「退職した警官」しかいないと見て、自ら制服を着てその役目を果たそうと決めたのだ。中国は、国際舞台のスポットライトに新たな一歩を踏み出した。
これは「Gゼロ世界」、つまり、中心的な役割を果たす国や機関が不在の世界での出来事だ。中国は長い間、世界的な問題をただ注視するだけに甘んじ、別の国が介入して事態を鎮静化させるのを指をくわえて見ていた。しかし、シリア内戦は混乱が周辺国にも飛び火しており、状況はこれまでとは異なる。
米国はシリア情勢について、介入しなくてはいけないほど自国への影響はないとみている。欧州連合(EU)も、一部の国は気にかけているようだが、それほど大きな関心は示していないように見える。
こうした欧米の消極的な姿勢により、中国には突然大きな問題が降りかかってきた格好だ。中国はイラクとイランに原油輸入の一部を頼っており、シリア内戦が周囲に飛び火するのを黙って見ているわけにはいかないのだ。中国が輸入する原油の11%はイラン産で、2030年までにはイラク産原油の最大輸入国にもなる見通し。
だからこそ中国はシリア情勢に介入し、和平案を提示した。そこには政治的解決に向けた交渉を担う委員会の設置などが含まれるが、内容そのものは、和平案を提示したという事実ほど重要ではない。
提案は中国の新たな外交アプローチを示すものだ。胡錦濤国家主席も最近の演説で、中国が「より積極的に国際問題に関与し、責任のある大国としての役割を果たしていく」と発言している。欧米諸国が停滞に苦しむ中、世界には新たな外交構造が出現しつつある。そして中国は、その中心的役割を担おうと決意している。
だからといって、中国が自らの行動を理解しているとは必ずしも限らない。中国にとって外交術は経験の浅い分野であり、これまではアジア地域の問題に口を差し挟むか、海外での経済的投資を通じた介入のみに限られている。
たとえ人権が侵害されても国家主権が重要と考える中国政府にとって、他国の問題に介入することは矛盾もはらむ。自国の主権への侵害を許さない中国は、他国の主権も侵害しないよう注意を払っている。
シリア内戦の解決に向けて中国が提案した和平案が何らかの効果をもたらす可能性は、基本的にゼロだ。ただ、提案を行うこと自体にリスクはない。中国はロシアとともに、国連安保理での対シリア決議案の採択で拒否権を発動してきたが、和平案を提示することで、拒否権発動に対する非難をある程度和らげることもできる。シリア情勢が改善すれば、中国は一翼を担ったと主張することもできるだろう。またもっと重要なことは、イラクとイランの原油の安全が確保されることだろう。
中国が外交の舞台に出始めたからといって、これまでの米国を役割を完全に担うことにはならない。しかし、世界は過渡期に突入しており、かつて米国が支配していた外交の舞台は、現在では誰のものでもない。
新たなリーダーが登場するには数年かかる可能性もある。アジア以外での外交の歴史はほとんどないが、中国は現在の状況を「好機到来」とみている。失敗もするだろうし、初期段階では首尾一貫した外交政策も期待できないだろう。しかし、世界の外交の空白は埋めている。問題は、それがブラックホールなのか、何も描かれていないキャンバスなのかということだ。
*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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