10月3日、重症ではあるが容態が安定している患者のように、世界経済は低空飛行が長期化している。都内で9月撮影(2012年 ロイター/Toru Hanai)
[ロンドン 3日 ロイター] 重症ではあるが容態が安定している患者のように、世界経済は低空飛行が長期化している。だが、ボラティリティも低水準で推移し、投資家に「青信号」を発している。
過去5年間にわたる信用危機は経済の不透明感を強め、企業や家計部門は将来の見通しが立てにくくなっている。2008/2009年に深刻なリセッション(景気後退)が世界全体に広がった記憶も、多くの投資家の心に刻み込まれている。
異例なほど積極的な財政および金融政策は、世界各国でしばらく継続される見込みだが、可能性は低いものの大きなショックをもたらしかねない「テールリスク」に対する投資家の恐怖心は薄れていない。
エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)がステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの依頼で今年夏に300の欧米の年金基金、資産運用会社、保険ファンド、プライベートバンクを対象に実施した調査では、今後12カ月以内に「テールリスク・イベント」が起きる可能性が「ある」あるいは「かなりある」との回答が4分の3近くに達した。
意外ではないが、そのリストのトップに挙げられたのは、ユーロ圏が崩壊する可能性と世界的なリセッションだった。
だが、JPモルガンのグローバルストラテジスト、Jan Loeys氏によると、世界経済のボラティリティは2008/2009年に急上昇した後は低下し、1970年代以来の低水準に戻った。そうした動きは投資家にリスクテイクを促す要因となる。
同氏によると、過去3年間は世界の成長率が戦後の景気回復局面で最も低水準にとどまったものの、過去42年のデータを分析すると、8四半期にわたる世界の国内総生産(GDP)伸び率のボラティリティは過去最低水準にあり、「グレート・モデレーション(大いなる安定期)」と呼ばれた2004―2005年の水準に並んでいる。
GDPのボラティリティ低下は、企業利益や業績見通しのボラティリティを押し下げているのみならず、やや不可解なことではあるが、欧米の株式市場でも投資家の強い不安感にもかかわらずボラティリティ<.VIX><.V1XI>が低下している。
米株式市場のボラティリティ指数(VIX)は現在16%前後にあり、昨年12月の半分近くに低下。危機が起きる前の2007年初めをわずかに上回る水準で推移している。
多くの投資家がVIXを将来のリスクを判断する指標としていることを考えれば、VIXの低下は、投資家に対してリスクの高いハイイールド商品への投資を促す要因となっている。
JPモルガンのLoeys氏は、過度の水準に達していた負債を削減するレバレッジ解消が世界経済や企業利益の成長を圧迫しているばかりか、市場のボラティリティも抑制していると指摘。「低水準のボラティリティは将来に対する不安感と共存できる。不透明感がリスクプレミアムを押し上げているため、そこに投資機会が生まれる」として、社債やジャンク債など高利回りセクターへの投資を推奨している。
<ボラティリティとリスク>
今年になって、投資家の不安感とは裏腹に市場におけるボラティリティが低下している理由として、別の要因も考えられる。それは中央銀行による積極的な緩和策が薄商いを招いているほか、マクロ経済に関する材料がない日には投資家の取引意欲が低下していることだ。
だが、当局による積極的な介入策が市場からボラティリティを奪っている一因だとすれば、そうした傾向が簡単に変わるとは考えにくい。
テールリスクに関して言えば、それは予測不能で最も脅威的なリスクであり、すでに把握されているリスクは脅威も少ない。
クラインオート・ベンソンのMouhammed Choukeir最高投資責任者は、EIU/ステート・ストリートの調査リポートの中で、「欧州は台風の目だが、すでに知られているためテールリスクではない。米国や日本のデフォルト(債務不履行)が本当のテールリスクであり、日本は巨額の債務を抱えている」と述べている。
それ以外にも、人口動態の変化、世界的な資源不足、気候変動といった、目に見えにくい世界の大きな流れこそが問題だと指摘する声もある。
先進国における若者の失業者増大、高齢化社会での依存率上昇、中間層の意欲喪失なども、測定しにくい社会的、政治的なリスクとなる。
各国政府がこうした問題に積極的に対処すれば、当面はボラティリティが抑えられた状態が続くかもしれないが、慎重な投資家は、こうした長期的な「巨大リスク」を忘れてはいない。
(Mike Dolan 記者;翻訳 長谷部正敬)
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