2月15日、三井住友銀行・チーフ・エコノミストの山下えつ子氏は、12日のG7声明には円とも日本とも書かれていないが、念頭にあったのは主として円・日本であったはずだと指摘。写真は都内で15日に撮影(2013年 ロイター/Toru Hanai)
山下えつ子 三井住友銀行 チーフ・エコノミスト(2013年2月15日)
ロシアのモスクワで20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が15―16日に開催される。中国など新興国が加わるG20会議で為替相場について合意を形成することは困難だとの見方も多かった。このため、円安のトレンドは今週も不変との予想が多かっただろう。
しかし、12日に日米欧7カ国(G7)が為替相場に関する緊急声明を発表したことで、G20でも為替相場が議題の一部になる見込みとなった。こうした動きを受けて、小幅ながら円高への巻き戻しが出ている。
G7声明は円や日本を名指しして批判しているわけではない。G20声明もその点は同じだろう。だが、昨年11月半ばの衆院解散決定時からみて、ドル円とユーロ円はそれぞれ約20%と約25%の円安となっている。こうした短期間での「円安・自国通貨高」が警戒視もされずに、無風に通過する方が不思議だ。声明には円とも日本とも書かれていないが、念頭にあったのは主として円・日本であったはずだ。
<G7声明の本当の役割>
一般論としては、通貨安が批判されるべきケースは、為替介入のほか、金融政策による通貨安誘導といった人為的な対応であり、かつ、その誘導された水準がファンダメンタルズから乖離した通貨安と判断される場合である。
これに照らして今回の円安はどうか。まず、日本は為替介入をしていない。一方、金融政策は緩和的に運営され、今後も積極的に運営される予定であり、現在の円安がこれを材料としている点は否めない。
次に水準については、現在の円の水準がファンダメンタルズから乖離しているとの判断は聞こえない。ドル円は95円程度が適正水準かという声が一般的であろう。
つまり、今回問題とされるとすれば、日本の金融政策が通貨安を誘導することを目的にしているのか、という点のみである。12日のG7声明は「財政・金融政策が為替相場を目標にはしないことを再確認する」としている。ここが、今回の円安の白黒を分けるポイントだ。
日本は、G7声明を受けて「日本のデフレ脱却対応は為替操作のためではない」と表明する機会を得た。日銀の金融政策決定会合後の総裁記者会見でも「金融政策は通貨安を目標としていない」との発言があった。円安水準がこれ以上進んだ場合には、あらためて問題とされる可能性はあるが、今回は円安が進行したがゆえに日本が財政・金融政策の路線変更を余儀なくされる、といったことは免れた。
G7の声明がなぜ出されたのか、舞台裏は明かされない。だが、日本が長期の景気低迷から脱却するために立ち上がったことは、海外から支持されているのだろうと思える。
<欧州のジレンマ>
ただし、G7声明は日本が立場を表明するための「お膳立て」とばかりも言えない。特にユーロ圏はリセッションの中でユーロ高が進行しているため、為替相場に敏感になっている。たとえば、ドイツは外需型の経済のため、このところの世界景気の底打ちは好材料ながら、ユーロ高は好ましくない。フランスは内需型だが、内需が低迷するなか、外需も低迷すれば立ち行かない。
ユーロ圏の12年10―12月の実質経済成長率は前期比マイナス0.6%で、減速の程度は7―9月のマイナス0.1%よりも強まった。景気回復をいまだ明瞭に展望できない現状で、為替相場への言及をせずにG20会議などの国際会議を通過するわけにはいかないだろう。G7声明は、日本以外の国にとっては為替相場を気にしていることを、それぞれの国内に向かってアピールする役割を果たしたと考えられる。
<G7・G20声明の金融政策への影響>
今週末のG20会議でも、類似の声明が出される見込みである。ただ、為替相場を気にしていることのアピールのためには有効だが、今後の各国の行動を自ら縛ることにもなるだろう。たとえば、ユーロ圏はもともと為替介入を嫌うため、介入はなかろうが、リセッションであっても金融政策を動かすことが少々難しくなった。その思惑はマーケットの利下げ観測も後退させ、ユーロの下落を抑制してしまう。
また、G20メンバーの新興国には為替レートをにらんで金融政策を運営している国もあろう。G20声明においてもG7声明と類似の文言が入る場合には、その後の各国の金融政策に対する外からの目が厳しくなる。G20声明にどこまで書き込めるのかも興味深いところである。
それにしても、金融政策にとって為替相場は、ある時は所与の外部条件であるが、ある時は金融政策の波及経路の一部となる。各国が抱えるそれぞれの事情の中で、金融政策はどうあるべきなのか。G7声明で改めてそう感じた。
*山下えつ子氏は、三井住友銀行のチーフ・エコノミスト。東京大学経済学部卒。1990-2000年ロンドン駐在エコノミスト、2003年より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」