焦点:米国債支える「金融的相互依存関係」、ロシア動向警戒でも安定

ロイター編集
焦点:米国債支える「金融的相互依存関係」、ロシア動向警戒でも安定
3月19日、クリミア半島をめぐる東西対立が緊迫の度合いを増す中、ロシアが米国債を売却したかのような兆候が出たが、債券市場は微動だにしなかった。写真はニューヨーク証券取引所。2011年11月撮影(2014年 ロイター/Mike Segar)
[ロンドン 19日 ロイター] -クリミア半島をめぐる東西対立が緊迫の度合いを増す中、ロシアが米国債を売却したかのような兆候が出たが、債券市場は微動だにしなかった。新興国と欧米の金融的な相互依存関係が市場を支える構図が浮かび上がる。
新興国の中央銀行が欧米の通貨や国債を大量に保有する構図を、サマーズ元米財務長官は2002年に「金融的相互確証破壊」と名付けた。核の抑止力を指す冷戦時代の「相互確証破壊(MAD)」になぞらえ、相互依存による金融安定化効果を説明したものだ。
サマーズ氏によると、海外の資金を必要とする米国側と、巨額の外貨準備を運用できる流動性の高い証券が必要な中国など新興国側は、債務者及び債権者として共生関係にあり、あえて相手側を傷つけようとはしない。
現在、新興国市場は米長期金利の上昇を一因として1年近くも緊張にさらされてきたが、保有する米国債を大量に処分すれば一段の金利上昇を招き、わが身に跳ね返る恐れがある。
新興国の外貨準備7兆7000億ドルのうち推計3兆7000億ドルが米国債で保有されている今、その影響力の大きさは正に核兵器に匹敵する。
金融的MADは純粋に経済、金融的便宜に基づくものだが、ロシアによるクリミアの実効支配とウクライナの領土に対する軍事上の脅威も併せて考慮に入れる必要が出てきたのかもしれない。西側諸国による対ロシア制裁も加わり、全体像は一層複雑化している。
米連邦準備理事会(FRB)が預かる外国中銀の米国債が、12日までの週に1050億ドルも減少したことが明らかになり、市場が目をむいたのはこのためだ。
疑いの目は直ちにロシアに向けられた。同国は今年、通貨ルーブル防衛のために外貨を投じたとはいえ、最新の公表値では、なお4950億ドル近い外貨準備を抱えている。米政府のデータによると、ロシアの主体は1月末時点で総額1390億ドルの米国債を保有していた。
<中銀の減少分、民間が補完か>
JPモルガンのアナリスト陣によると、FRBが預かる米国債の額は年初から差し引き800億ドル減少したが、このうち新興国の外貨準備減少に起因するのは約400億ドルにとどまる。そしてこの大半が、ルーブル防衛のために昨年来約310億ドルの介入を行ったロシアの分だ。
しかし減少分の残りはどこへ行ったのか。確かなのは、市場が急減に対して反応しなかったことだ。米10年物国債利回りは1月1日の水準からほとんど変化しておらず、2年物は年初より下がっている。
推察されるのは、ロシアが米国債を安全な場所に移しただけ、という可能性だ。クレディ・スイスのストラテジスト、アイラ・ジャージー氏は「2日間で1000億ドルの売りを出せば、まず間違いなく相場は小幅ながら下げ、市場ではうわさが飛び交う。報道や一部の市場参加者は、ロシアが保有米国債を制裁の可能性から守るため、新たな預託先に移した可能性を指摘している。冷戦時代にも似たようなことがあり、最終的にユーロドル市場の誕生につながった」と語った。
とはいえ、ロシアその他新興国が外貨準備を取り崩せば、米国債にとって非常に直接的な売却要因につながる状況に変わりはないし、こうした状況は根強く続きそうだ。自国通貨の防衛や、国内金融機関の資本増強を迫られた場合には外貨準備を減らす必要が出てくる。
ジャージー氏は「中国あるいは東欧の問題がシステミックなリスクオフに発展すれば、新興国による追加的な米国債の売却は、確率こそ低いが無視できないリスクとなる」と話す。
新興国中銀による米国債保有額の減少が今のところ、米国債相場にほとんど影響していないことは、返す返すも特筆に値する。FRBはなお量的緩和政策としての国債購入を続けているが、その額は徐々に減らしている。
これらの影響を補っているのは、民間の投資信託による米国債需要かもしれない。地政学上の混乱を怖れたり、株価上昇や経済成長の行き詰まりを嫌気したり、迫り来る退職を前に長期的なリスク回避モードに入ったりと、米国債購入の理由はさまざまある。
JPモルガンのNicholasPanigirtzoglou氏は、個人投資家は昨年下半期に合計1000億ドル分の債券ファンドを売却した後、ことし第1・四半期に入ってからは330億ドルの購入に転じた指摘。個人投資家が需要の穴を埋めている可能性が最も高いと見ている。
つまり、海外中銀に米国債売却を迫っている金融・経済上のストレスが、民間においては米国債の需要を喚起する要因になっている側面がありそうだ。
MADによる債券相場の下支え効果は、かつてなく強まっている可能性がある。もっとも、より重要な試金石が現れるのは今春かもしれない。その頃、米経済は寒波の影響から立ち直り、FRBの国債購入の縮小幅は財政赤字削減による国債供給の減少分を上回り始め、新興国中銀は相変わらず緊張にさらされているだろう。
(Mike Dolan記者)

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