12月15日、衆院選に勝利した自民党、公明党の連立与党に「逆風」が吹いている。原油安が起点となり、株安・円高圧力が拡大。写真は東証(2014年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 15日 ロイター] - 衆院選に勝利した自民党、公明党の連立与党に「逆風」が吹いている。原油安が起点となり、株安・円高圧力が拡大。長期安定政権による成長戦略の推進には期待が高まっているが、「ご祝儀買い」とはいかず、世界的なリスクオフの流れに押されている。
<7倍速の「つるべ落とし」>
マーケット全体を揺るがしているのは、原油価格の急速な下落スピードだ。今年7月下旬に104ドル台だった米原油先物は、11月下旬までに74ドル台まで約4カ月で約28%下落したが、石油輸出国機構(OPEC)が11月27日の総会で減産を見送ると下落が加速。足元で56ドル台まで下落しており、半月余りの間に約24%の急落と単純計算で7倍近い速度での「つるべ落とし」となっている。
原油価格の下落は資源輸出を主産業とする新興国にとってはマイナスだが、先進国にとっては、エネルギーや原材料コストの低減につながりプラスだ。エコノミストの間では、世界経済全体でみればコスト低減によるプラス面の方が大きいとの見方が大勢となっている。
しかし、その下落スピードの速さゆえ、グローバル化した金融マーケットは動揺。原油価格だけでなく、石油掘削・生産会社の債券なども急落しており、そうした資産に投資していたヘッジファンドや投信などに損失が生じているもようだ。
グローバル化したマーケットがどこでどうつながっているか見えにくいのはサブプライム問題で経験済みであり、「警戒感を強めた海外勢を中心に急速なリスクオンポジションの巻き戻しが進んでいる」(国内投信)という。
実際、デフォルト(債務不履行)を補てんするクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドは、ロシアやベネズエラなど資源国で急拡大。米国ではエネルギー関連株だけでなく、米アップルなど国際優良株もヘッジファンドの原油安の損失をカバーする益出し売りの対象になっているとされ、前週12日の米ダウ<.DJI>は300ドルを超える大幅安となった。
「中国経済は底堅いとはいえ減速方向だ。同国の需要減が新興国経済を下押すなかで、原油急落で資源国の経済が揺らげば、マーケットにも大きな影響が起きる。原油安は先進国にはプラスだが、新興国リスクは来年の大きな警戒要因になろう」とシティグループ証券のチーフエコノミスト、村嶋帰一氏は指摘する。
<日本株のショートが増加>
日本も例外ではなく、15日の市場で、日経平均<.N225>は一時300円安、長期金利は一時0.38%に低下した。トヨタ自動車<7203.T>は15日前場で1.96%の下落と日経平均の1.31%を超える下落率となっており、海外勢による国際優良株への益出し売りが出ているとみられている。
株高・円安を支えてきたのは海外投資家であり、彼らがリスクオフモードに入れば、逆らうのは難しい。ドル/円は15日午前の市場で「日本の公的資金による買いのうわさが出ている」(外資系証券トレーダー)といい118円台で下げ渋っているが、これまでの強気一辺倒なムードは後退している。
米商品先物取引委員会(CFTC)のデータでは、投機筋の円建て日経平均先物ショートポジション(12月9日まで)は2万6488枚と前週から5870枚増加し、04年の統計開始以来、過去最高となった。「投機筋のロングポジションも過去最高水準に積み上がっており、日本株への強気が低下したわけではないが、原油安を起点としたリスクオフへのヘッジが増えているようだ」(T&Dアセットマネジメントのチーフエコノミスト、神谷尚志氏)という。
<成長戦略の推進を市場は期待>
今回の衆院選では、自民党と公明党合わせて326議席と3分の2超を維持、与党圧勝といえる結果となった。しかし、投票率は52%台と過去最低、自民党の獲得議席数も事前予想の300に届かず沖縄では小選挙区で全敗と、いくつかの「ほころび」もみられた。
長期安定政権を築く安倍晋三首相に市場が期待するのは、構造改革や成長戦略、いわゆるアベノミクス「第3の矢」の推進だ。前週、アジアの投資家を訪問してきた外資系証券エコノミストによると、人口減対策が日本にとって一番重要だとの認識が多かったという。
しかし、「これから見送り法案の採決、来年度予算編成、集団的自衛権の国会審議とスケジュールは目白押しだ。成長戦略を議論する時間はあまりない。成長戦略の議論が後回しになれば、市場の失望を買うおそれもある」(ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏)との警戒も出ている。
<郵政相場の「その後」>
ある銀行系投信のファンドマネージャーは、日本株を勧めるときに、小泉郵政解散時との類似性を指摘するのだという。
2005年8月8日、当時の小泉純一郎首相は同日の参院本会議で、郵政民営化関連法案が否決されると、即日、衆院解散の意向を表明。自民党は衆院選で296議席を獲得した。
日経平均株価は1万1778円(2005年8月8日)から、1万7563円(06年4月7日)まで5784円上昇。その間、株高をけん引したのが外国人投資家だ。構造改革推進への期待を背景に、05年8月から06年4月に約8兆7000億円を買い越した。
今回も選挙で圧勝した与党に対し、構造改革の推進が期待されることから、郵政相場の再現を予想する声も少なくない。
しかし、「郵政相場」は長続きせず、その後、リーマン・ショックもあったが、日経平均は08年10月に6994円と7000円を割り込み、バブル後最安値を更新。対外的なショックに極めて脆弱な姿をさらした。その後、10年近く経つが、構造改革は進んでいない。
石油安ショックがどこまで広がるかは見極めが難しいが、安倍首相が圧倒的な「力」を活かせず、構造改革や成長戦略に手間取るようであれば、日本は再び海外からのリスクオフの流れに大きく揺さぶられるかもしれない。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)
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