選挙後相場の行方:政府・日銀の円安修正に警戒、米利上げも波乱要因

ロイター編集
選挙後相場の行方:政府・日銀の円安修正に警戒、米利上げも波乱要因
 12月15日、衆院選は事前予想通りの与党大勝となったことで、外為市場の視線は早くも次に移っている。写真は都内のトレーディングルーム。11月撮影(2014年 ロイター/YUYA SHINO)
[東京 15日 ロイター] - 衆院選は事前予想通りの与党大勝となったことで、外為市場の視線は早くも次に移っている。アベノミクスが一応の評価を得た形だが、急激な円安を受けて、政府・日銀の円安スタンスが修正されれば、円安ペースが鈍化しかねないとの警戒感も強い。来年に見込まれる米国の利上げでは、株式相場の動向次第でリスクオフの円買いが強まる「波乱」もありうるという。
<与党大勝、織り込み済みで持ち高調整の動きも>
衆院選の投票日から明けた15日、ドル/円相場は乱高下の様相となった。朝方に117円台に下落したドル/円は、119円台に上昇した後、再度118円台に下落して、1円超の値幅が出た。
自民、公明の連立与党が全体の3分の2に当たる317議席を超える326議席を獲得する圧勝となったこと自体は、総じて好意的に受け止められた。JPモルガン・チェース銀行のチーフFX/EMストラテジスト、棚瀬順哉氏「中長期的には、与党が大きく議席を減らし政治的安定が損なわれるというリスク・シナリオが回避されたことで、株価にポジティブ、円相場にネガティブ(円売り)」とみる。
この一方で、クリスマス休暇を前に商いが薄くなっていたところ、欧米株価や原油価格の下落を嫌気したリスクオフの流れが強まった。自民党が300議席を維持することが事前に予想されていたとして、朝方の円高方向の動きは、材料出尽くし感からの円買い戻しが背景にあると見られている。
野村証券のチーフ為替ストラテジスト、池田雄之輔氏は、日銀の追加緩和や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のリスク資産運用拡大、衆院選というアベノミクスの連続イベントが途切れたことで「海外投機筋にとっては、円ショートを積極的に積み上げるインセンティブが無くなった」と指摘する。投機的な円売りポジションが相当大きく積み上がっているとして「市場がリスクオフに傾斜するたびに、ポジションの巻き戻しが断続的に発生する可能性があり、当面はドル/円の下値リスクに警戒したい」(池田氏)と話している。
<政府の円安スタンスに修正あるか>
与党の大勝で、インフレ・円安・株高政策の推進継続への期待感は大きく、新生銀行の執行役員市場調査室長、政井貴子氏は「日本側は株高・円安を支援する材料しかないといえる」と指摘する。
もっとも、急激に円安が進行したことで、日銀の金融政策と政府の通貨政策との間に「ねじれ」が生じかねず、円安ペースを鈍化させるおそれを指摘する声もある。
みずほ銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏は、円安メリットを受ける人とデメリットを被る人の格差が顕著になってくれば、政府の通貨政策において、円安からやや距離を置くような動きもあるかもしれないとして「場合によって日銀の量的・質的金融緩和(QQE)の後退的修正にもつながる可能性があり、それは円安ペースの鈍化や、株価下落をもたらすリスクシナリオと考えられる」とみている。
来春には、自民党の総裁選に影響を与えやすい統一地方選がある。ニッセイ基礎研究所のシニアエコノミスト、上野剛志氏は「円安けん制発言も出やすく、相場はより不安定になるかもしれない」と指摘している。
<米早期利上げで「波乱」も>
来年のドル/円相場にとって、最重要テーマのひとつが米国の利上げだ。金融緩和を継続する日本と、利上げに向かう米国という政策の方向性の違いが鮮明になることで、当面のドル高/円安のトレンドがけん引されると見られている。
今年8月末から12月にかけてのドル上昇相場も、日銀による追加緩和への期待、米早期利上げへの期待の高まりが背景にあった。ドル/円は半年足らずで約20円も急上昇。120円台に乗せた12月前半の外為市場では、2007年6月の高値124.14円も遠くなく、130円も近く射程に入れるのではないかとの見方が出ていた。
ただ、新生銀行の政井氏は「ドル130円のストーリーは、米国側の要因で難しい」と指摘する。米連邦準備理事会(FRB)は利上げを急がず、市場が想定するほどに米金利は上昇しないとの見方だ。政井氏は、原油安が継続する一方、ドルが高い状況が続くのであれば、通貨高で物価に対する引き締め効果が出てくるとして、「欧州、日本、中国といった、国内総生産(GDP)の大国が緩和を継続する中で、あえて金融政策を引き締める必要があるのか、米国は自問自答することになるのではないか」と見ている。
米利上げ時期について、みずほ銀の唐鎌氏は市場の大方の見通しとなっている来年央よりやや遅めの9月とみる。インフレ指標が低い中で、あえてリスクを取って利上げを前倒しするメリットに乏しいとみているためだ。利上げが近づけば米金利・ドル高になる傾向があるとして「その際の住宅市況次第では、むしろ後ずれもあり得る」(唐鎌氏)という。歴史的にはドル高は利上げ開始までで、利上げ直後にはドルが急落することも多かったとして「利上げ後の10─12月はドル高のペースが鈍化するだろう」(唐鎌氏)と見ている。
米国の利上げを控えた金融市場では「不確実性が高まりそうだ」と、ニッセイ基礎研の上野氏は見通す。これまでの金融緩和一本やりから約10年ぶりに利上げを開始することで、金融引き締めの転換点を迎えることになるためだ。
「グローバルに景況感がさえず、米景気が相対的に堅調だとしても、利上げを控えて米国株がどれほど持ちこたえられるかが焦点だ」と指摘するのは、FPG証券の代表取締役、深谷幸司氏だ。金利上昇と株安の中でリスクオフになる可能性があるとみており「ドルの上値は、125円以上は購買力平価から行き過ぎであり、物価上昇を通じて消費に悪影響を与えるという点からもイエローゾーンだとみている」と話していた。
<市場関係者の見方は以下の通り>
●政府と日銀の政策でねじれ、円安ペース鈍化も
<みずほ銀行 チーフ・マーケット・エコノミスト 唐鎌大輔氏>
衆院選の結果は現状追認となった。ただ新聞の世論調査などでは、自民党を支持しながらも、アベノミクスを評価しない層が半数に及ぶなど、経済政策への信認は決して盤石とは言えない印象だ。今後、政府は、円安のもたらす意味の再考を迫られるかもしれない。日銀の金融政策と政府の通貨政策との間で「ねじれ」が生じ、円安からやや距離を置くような動きもあるかもしれない。
2015年のドル/円のレンジ予想:117─130円
●米国は利上げ急がず、ドル高に物価引締め効果
<新生銀行 執行役員市場調査室長 政井貴子氏>
与党で3分の2の議席を確保し、怖いものなしといえる。あとは政策の内容での勝負だ。日本側は株高・円安を支援する材料しかない。一方、ドル高が続くのなら、米国では物価に対する引き締め効果が出てくる。米国は利上げを急がず、市場想定ほどに米金利は上昇しないとみる。
2015年のドル/円のレンジ予想:105―125円
●世界的なリスクオフの流れ、米国株の動向が鍵
<FPG証券 代表取締役 深谷幸司氏>
中国の景気先行き不安、ギリシャの大統領選、原油安など、グローバルな流れはリスク回避。年末にかけ、市場の流動性が低下する中でリスク回避の動きが一段と際立つ可能性がある。来年は、米国株の動向が鍵を握る。グローバルに景況感がさえず、米景気が相対的に堅調だとしても、利上げを控えて米国株がどれほど持ちこたえられるかが焦点だ。
2015年のドル/円のレンジ予想:113―127円
●第3の矢が焦点に、リーダーシップと本気度がカギ
<ニッセイ基礎研究所 シニアエコノミスト 上野剛志氏>
アベノミクスは第1、第2の矢に頼りすぎた面があり、来年以降は、どれほど第3の矢が進められ、経済の足腰が高められるか、その際のリーダーシップと本気度がカギとなる。米国の利上げが見込まれ、金融引き締めからの転換点を迎える。このため、市場では不確実性が高まりそうだ。日米の金融政策の方向性の違いは明確なため、ドル高/円安の方向だろうが、一本調子の上げ相場という訳にはいかない。
2015年のドル/円のレンジ予想:114―125円
●当面は投機的円売りポジションの巻き戻しリスクに警戒
<野村証券 チーフ為替ストラテジスト 池田雄之輔氏>
衆院選の結果は、市場は概して織り込み済みの反応だった。ただ、自民党の獲得議席数に関しては、選挙戦終盤の「自民単独で3分の2もあり得る」との強気予想を下回ったため、若干のドル/円の失望売りを誘った。アベノミクスの連続イベントが途切れ、海外投機筋が円ショートを積極的に積み上げるインセンティブが無くなった。ポジションの巻き戻しが断続的に発生する可能性がある。
2015年のドル/円のレンジ予想:115―128円
●リスク資産下落は円高要因、116円付近まで調整も
<JPモルガン・チェース銀 チーフFX/EMストラテジスト 棚瀬順哉氏>
足元の金融市場は、米国株の下げが顕著で、エマージングの債券も売られ、調整トレンドの渦中にあるといえる。リスクアセットが売られる流れは円相場にポジティブ(円高要因)だが、これがしばらく続くか否かが焦点となるだろう。10月の調整時から類推すれば、ドル/円相場は116円程度まで下押ししてもおかしくない。
来年のドル/円予想相場:2015年3月末 120円
同  6月末 123円
同  9月末 125円
同 12月末 128円

ロイター為替チーム 編集:伊賀大記

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