焦点:アベノミクスへ不安漂う短観、成長戦略と賃上げで真贋見極め

ロイター編集
焦点:アベノミクスへ不安漂う短観、成長戦略と賃上げで真贋見極め
 12月15日、朝方発表された日銀短観は企業の先行きへの不安を映しだし、アベノミクスの実体経済への浸透が2年経っても広がっていない実情が浮き彫りになった。写真は東京の建設現場(2014年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 15日 ロイター] - 今朝発表された日銀短観は企業の先行きへの不安を映しだし、アベノミクスの実体経済への浸透が2年経っても広がっていない実情が浮き彫りになった。当初は起爆剤となった円安も、さらなる進行はデフレ的状況を再現させかねないとの懸念も浮上。
衆院選の争点となったアベノミクスが本当の信任を得られるかどうかは、賃上げの実現と成長戦略の実行にかかっている。
<円安・株高効果に限界>
15日に発表された12月日銀短観では、自動車をはじめとした大企業製造業の景況感が2四半期ぶりに悪化した。「先行きは中小企業も含めて軒並み悪化が示され、急速な円安進行によるコスト上昇が、先行き懸念に大きく表れた」(SMBCフレンド証券・チーフマーケットエコノミストの岩下真理氏)とみられている。
「このまま130円に円安が進めば、再びデフレ的状況を作りかねない」──。政府関係者の中でも、急速な円安進行がコスト高・物価高を招き、安倍政権の最優先課題であるデフレ脱却をかえって阻害しかねないとの懸念も浮上している。
半年で3割超の原油安という交易利得は企業にとってコスト安となり、賃金や設備投資など様々な形で還流するまたとないチャンスだが、円安が原油安を部分的に相殺し、その効果を削いでしまう悪影響が懸念されている。
企業からも「株価上昇や円安によるメリットはほとんどない」との声が目立ち始めている。日銀による10月末の追加緩和後に円安が進行したが、ロイター調査では、追加緩和はもはや経営に影響しないとの回答が6割以上にのぼり、1割程度が悪影響があると回答した。
<実体経済への浸透少なく>
アベノミクスが始まって2年、円安や株高の効果は、1年目こそ消費税率引き上げ前の駆け込み需要も手伝って実体経済を押し上げたが、2年目は増税の反動減を乗り越えるほどの力は見られない。
12月のロイター調査では7割以上がアベノミクスのデフレ脱却効果を評価しているが、細部をみると「国民全体がデフレ脱却を意識しているとは思えず、2極化している」などと、恩恵が一部の層に偏っていると指摘するコメントが多い。効果は金融市場にとどまっているとの指摘もあり、実質国内総生産(GDP)の規模はアベノミクスが始まった2013年第1・四半期と比べ、今年7─9月期にはむしろやや縮小している。
政府内でも、アベノミクスの浸透が限定的になっているとの懸念がある。ある政策当局幹部は「問題は、名目所得増加から消費へ、あるいは企業収益増加から設備投資へという流れが目詰まりしていることにある」と指摘。こうした事態を打開するため、消費刺激策を中心とした経済対策の検討が進められている。
バークレイズ証券・チーフエコノミストの森田京平氏は「アベノミクスが始まって2年経つが、トリクルダウンは見られない」と指摘。今後の課題は、成長戦略の実行によって、金融政策や財政政策の効果を賃金などを含めた幅広い裾野に広げる枠組みにあるとみている。しかし、15年前半は3月末まで予算関連、4月以降は安全保障法制の国会審議が待ち受ける。アベノミクスは空白期に入り、トリクルダウンを遅らせると懸念する。
<すそ野広がるか、円安の恩恵>
一方、12月短観では全規模全産業でみた14年度の事業計画は増収・増益が見込まれており、設備投資計画も非製造業を中心に上方修正された。日銀では、しっかりした事業計画から企業の前向きな支出活動は維持されているとみている。為替が急激に変動しない限り、120円程度の円相場であれば、輸出産業を中心とした企業の収益増が雇用や所得、国内投資につながる効果がデメリットを上回るとみている可能性が大きい。
もっとも、足元で企業や家計のマインドが慎重化している背景には、日銀内でも円安進行に伴う原材料価格や食料品など輸入コストの上昇が影響しているとの見方は少なくない。
短観における大企業製造業の14年度の想定為替レートは103.36円となり、足元で118円台で推移する市場実勢と比べて保守的な見通しが示された。急速に円高が進行しない限り、先行きの企業収益は上振れする可能性が大きい。
安倍晋三首相は14日の衆院選後、テレビ各局とのインタビューで「実感が得られない人々にアベノミクスの成果を届けることが使命だ」とし、「近々政労使会議を開き、来年の賃上げに向けて合意形成をしていきたい」と表明した。好調な収益をあげる企業から家計に恩恵のすそ野が広がるのか。安倍政権が掲げるデフレ脱却と経済の好循環の実現に向け、政府・日銀は年明けから本格化する春闘の行方を注視している。

中川泉、伊藤純夫 編集:石田仁志

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