焦点:トヨタの種類株、日本企業の資金調達に一石 波及は未知数

ロイター編集
焦点:トヨタの種類株、日本企業の資金調達に一石 波及は未知数
 6月17日、トヨタ自動車が種類株を発行できるよう株主の了承を得たことは、日本企業の資金調達に一石を投じたと言えそうだ。都内で16日撮影(2015年 ロイター/YUYA SHINO)
[東京 17日 ロイター] - トヨタ自動車<7203.T>が種類株を発行できるよう株主の了承を得たことは、日本企業の資金調達に一石を投じたと言えそうだ。総会では株主説明に長時間を割き、初の商品性を解説するための情報の発信や対話の重要性があらためて示された。一方で、他社による導入のハードルは低くなく、種類株の早期拡大を予想する声は少数派のようだ。
トヨタは16日開催の定時株主総会で、「AA型種類株式」の発行を可能にする定款変更を約75%の株主の賛成を得て可決し、5000億円の同種類株の発行を決議をした。調達した資金を中長期的な研究開発に投じるとともに、中長期で保有する株主層の拡大を目指す。
直近のピーク時に14.3%(2012年)だった個人株主の比率は、今年3月末時点で10.5%にまで低下しており、この拡大が重要な経営課題となっている。
トヨタとして過去最長となる3時間2分の総会の中で、同社は全体的な質疑応答の時間を設けたあと、各議案ごとに株主からの質問を受けた。総会で個別議案ごとに質疑応答の時間を設定し、決議するのは珍しい。
種類株の賛否を問う第7号議案の質疑応答には、全体の3分の1にあたる1時間近くを割いた。
<質問は7号議案に集中>
種類株は同社にとって初めての試みということで、株主からは分かりやすい説明を求める声が相次いだ。
株主優待ではなく種類株を選択する理由や、今のような低金利下で、社債を発行するコストと株式を発行するコストを「どう比較したかのか」といった専門的な質問もあった。
豊田章男社長はこれらの問いに対し、種類株の発行によって「株主に選択肢の幅を広げる」、「資本市場を活性化させる役割を民間企業のトヨタが半歩進める」などと説明した。
創業時を振り返り、国産初の量産自動車を作ろうと豊田喜一郎氏が提案した際に「やりましょうよ」と言った仲間に囲まれたことに触れ、「これからのトヨタの将来は、株主の皆様と一緒に切り開いていく道。皆さん、トヨタと一緒にやりましょうよ」とも訴えた。
<見方は二分>
同種類株をめぐっては、もともと賛否が対立していた。
海外ではフェイスブック、グーグル、リンクトインなど複数の種類株の発行例があるが、日本では伊藤園<2593.T>など数社にとどまる。最近の例では昨年、東証マザーズに新規株式公開したロボットベンチャー、CYBERDYNE <7779.T>くらいだ。
今回、トヨタの種類株発行が議決されたことについて、西村あさひ法律事務所の太田洋弁護士は「資本市場が短期志向を強める中で、このような選択肢ができたのはよい取り組み」と評価した。
シティグループ証券の藤田勉副会長も「米国では種類株を発行している企業があり、発行したい企業にとって(調達手法の)自由があることが望ましい。反対意見はあるだろうが、それを理由に規制がかかるのはよくない」との見方を示した。
上場企業の発行する株式の多様性は、米国だけではない。欧州では長期に保有すると議決権が増える株式があり、長期投資を優遇する仕組みがある。
日本では、中長期の株主層を増やす対応策としては株主優待制度が一般的だが、機関投資家には「割引券や自社製品の箱詰めが送られてきても使えない」(運用会社)と不評。海外株主が多い会社であればなおのことだ。
一方、今回の種類株の発行はモノを言わない安定株主を作り、コーポレート・ガバナンス・コードの趣旨に反するとの見方があるが、太田弁護士は「個人も会社に不祥事があれば黙ってはいない。(個人が)サイレントインベスターで安定株主工作とみるのは、ややミスリーディング」と反論。
「特段の資金ニーズなどもなく、発行済株式総数の3分の1以上を種類株で占めようとしたり、種類株をグループ会社に第三者割当てするとなれば安定株主作りと見られかねないが、今回はそうではない」と話した。
<反対票の重さ>
ただ、25%の株主は反対したことを「重く受け止めるべき」(ガバナンス専門家)との意見もある。今回はまた、流動性を重視する機関投資家は実質買えないため、不公平さの残る面は否めない。
その専門家は「(トヨタが)研究開発費をどう使い、どうパフォーマンスを上げて企業価値を高めるか、丁寧な説明責任を果たす必要がある」と述べ、これからの動向を注視する考え方を示した。
16日の総会では、ガバナンスへの懸念について小平信因副社長が、中長期に保有してもらうことで「(トヨタの)経営ガバナンスに対し、中長期的な視点から多様な意見をいただく。これをガバナンスに反映し、持続的な成長を図りたい」と答え、会社として長く成長し続けると株主に訴えた。
大和証券・投資戦略部シニアストラテジストの塩村賢史氏は、トヨタが「何を目指しているのか、ガバナンスの志向なども今後説明が求められる」と、課題の重さを指摘している。   
<拡大は未知数>
種類株による資金調達が日本の企業の中で広がるのか、この点についてはいまだ未知数のようだ。
太田弁護士は「全ての会社でできるわけではないだろうが、事業会社はかなり関心を持っている」という。
一方で「比較的安定株主の多いトヨタでも議決に苦戦したとみられることを考えれば、導入のハードルは決して低くない」(大和の塩村氏)との見方もある。 
譲渡制限の期間内に、会社が経営破たんしない自信や財務基盤を持つ会社は発行できるとする一方で、ある大手証券関係者は「単なる買収防衛の形態として使うような企業が出てこないか、マーケットは厳しくみる必要がある」と警鐘を鳴らしている。

江本恵美、白木真紀、取材協力:富沢綾衣 編集:田巻一彦

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