6月26日、賃上げや設備投資の拡大を背景に国内景気に活気が戻り、与党や経済界に政府による早期の「デフレ脱却宣言」に対する期待感が高まっている。ただ、政府内ではデフレに逆戻りしないという確信が持てないために慎重姿勢が目立つ。写真は、自民党の看板、2009年7月撮影(2015年 ロイター)
[東京 26日 ロイター] - 賃上げや設備投資の拡大を背景に国内景気に活気が戻り、与党や経済界に政府による早期の「デフレ脱却宣言」に対する期待感が高まっている。ただ、政府内ではデフレに逆戻りしないという確信が持てないために慎重姿勢が目立つ。
同時に宣言によって「日銀の出口」が近いと市場が先読みし、長期金利が上昇することへの懸念もくすぶっている。安倍晋三首相がデフレ脱却を高らかに宣言できるかどうか不透明な情勢だ。
<経団連会長発言の背景>
「政府・日銀が今年のある時期に『デフレ脱却宣言』をすると推測している」──。今月初め、複数のメディアインタビューで飛び出した榊原定征・経団連会長のこの発言に、一部で注目が集まった。
経団連によると、デフレ脱却に向けて現実味が出てきた今、内部留保よりも実物投資の方が有利だとなれば、設備投資に取り組む前向きな企業心理が台頭し、景気の好循環を生み出せるという狙いがあったという。
政界でも独自の思惑がうねりを見せている。ある参院議員は「安倍首相にとって、デフレ脱却という実績を作るという面で大きな効果がある。参院選で改選となる自民党議員には、デフレ脱却宣言が選挙で追い風となるだろう」と、与党内の思惑を解説する。
ソシエテジェネラル証券・チーフエコノミストの会田卓司氏は「16年の夏の参院選までには、構造的な内需低迷とデフレからの完全脱却を安倍首相が宣言し、その成果を国民にアピールしていくことになる」と予測している。
また、2017年4月に予定されている消費税10%への引き上げとの関連を指摘する声もある。ニッセイ基礎研究所の経済調査室長・斉藤太郎氏は「消費税を10%に引き上げるための経済環境を整えるには、心理的効果も重要。物価ととともに景気も回復していると宣言することで、明るい雰囲気を醸成する助けになる」と述べる。
政府が2013年12月の月例経済報告で、「デフレ」の表現を削除してからすでに1年半が経過した。「デフレではない」と説明しながらも、「脱却には至っていない」とわかりにくい説明に終始し、いったい正式な脱却宣言はいつするのか、と政府を取り巻く「外野」からは、様々な観測が出ていた。
<日銀出口論への明確な説明を迫ることに>
物価目標2%の達成を掲げる日銀内部でも「政府はデフレ脱却宣言をいつする気だろうか」と、脱却宣言の時期を気にする声が出始めた。
ただ、政府内には「日銀が2%の物価目標を実現していることが前提となる」という声もあり、政府・日銀が互いに「本音」を探り合っているとも見受けられる。
政府がデフレ脱却宣言をしてしまえば、日銀が封印している異次元緩和からの出口論についても「時期尚早とは言えなくなる。実際にテーパリングを開始することはなくとも、日銀は(その時までに)きちんと出口の手順を説明できるようにしておく必要がある」(先の参院議員)との指摘も出ている。
ただ、出口議論を切り出すタイミングは、政府と日銀双方にとって、デリケートな問題だ。出口の議論が本格化することで、長期金利が上昇すると、財政再建の基礎が揺るぎかねない。
また、宣言後にデフレに逆戻りすれば、政府と日銀の双方の信認を傷つけることになる。
このため内閣府など政府サイドは、正式なデフレ脱却宣言の時期について「ずっと先の話」とし、慎重な姿勢を崩していない。
政府がデフレ脱却の判断材料としている経済指標からみれば、「消費者物価指数(CPI)」「GDPデフレーター」「単位労働コスト」「需給ギャップ」などは、すでに改善方向ないしは来年にかけて改善が見通されている。
しかし、最も重要な「デフレに戻る見込みがないこと」という5つ目の条件をクリアすることは、デフレ体質の根深さや先行き経済情勢の見通し次第で「自信が持てない」(経済担当部局の関係者)というわけだ。
小泉純一郎政権終盤にデフレ脱却宣言を検討したある政府関係者は、賃金引上げに伴う「単位労働コスト」の改善がクリアできる見込みがたたず、宣言を断念したとの経緯を明かす。
今回も「宣言見送りも有力な選択肢」とする声が政府部内にはあり、デフレ脱却宣言をめぐる「濃霧」は、晴れる兆しが見えない。
中川泉 編集:田巻一彦
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