4月25日、日韓メーカーがしのぎを削る次世代テレビ市場で、韓国LG電子が一歩先んじようとしている。都内の家電店で3月撮影(2012年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
[東京/台北 25日 ロイター] 日韓メーカーがしのぎを削る次世代テレビ市場で、韓国LG電子<066570.KS>が一歩先んじようとしている。
関係筋によると、LG電子は55インチの有機EL(エレクトロルミネッセンス)テレビを5月に欧州の複数の国で発売するという。今年下期という当初の計画を大幅な前倒しし、国内ライバルのサムスン電子<005930.KS>に差をつける。それだけではない。長らく日本メーカーが支配してきたテレビ市場の主導権を少なくとも今は、韓国勢が握っていることをも鮮明にする。
フィッチ・レーティングスのアジア太平洋地域責任者のSteve Durose氏は「(かつては)最高品質のテレビを買うならシャープかパナソニックかソニーだったが、そんな時代は去った」と言う。
1980年代、90年代と世界のテレビ市場は日本勢が席巻していた。しかし、韓国勢の激しい攻勢を受け、需要低迷や円高に苦しみ、ソニー<6758.T>、パナソニック<6752.T>、シャープ<6753.T>のテレビ事業は軒並み赤字となっている。
日本メーカーが苦戦している中で、テレビ市場は技術を選択する時期を迎えている。クレジット・カードのように薄い有機ELテレビか、それとも超高精細テレビかだ。
<有機ELテレビ、鍵は価格>
ソニーは2007年に世界初の有機ELテレビを発売した。だが、世界的な景気悪化を背景に3年後に生産を停止。3Dテレビに軸足を移した。
一方の韓国勢。サムスン電子とLG電子は今年1月、米ラスベガスでの家電見本市「CES」で55インチの有機ELテレビを披露。すでに有機EL分野で積極的に展開する方針を示していたサムスン電子は2月にLCD部門のスピンオフ計画を発表した。
有機ELテレビの課題は価格の高さだ。液晶テレビと比べた価格の差が大きいことから、世界のテレビ市場は当面、液晶テレビが中心と考えられている。
LG電子系のLGディスプレー<034220.KS>の調査によると、有機ELが一般消費者に売れ始めるには、現在、液晶テレビの10倍もする価格が1.3倍か1.4倍まで下がる必要があるという。
有機ELテレビに対抗する超高精細テレビ。ソニー、パナソニック、シャープの日本勢は、画像解像度がフルハイビジョンの4倍という「4K」と呼ばれる技術を持っている。しかし、放送インフラの面で障害がある。視聴者が4K画像を楽しむためには、放送局の設備も対応が必要となる。
これに関し、SMBC日興証券の三浦和晴アナリストは「インターネットからの映像ダウンロードで超高精細画像をより簡単に楽しむことができる」と指摘する。スマートテレビのトレンドを考えると、日本勢が韓国勢より優位に立てる可能性がある。しかし、事業建て直しには助けが必要だ。
<同盟なるか>
現在模索されている選択肢の1つに、日本の大手メーカーが政府の仲介により連携する案がある。LCD分野では、東芝<6502.T>、日立製作所<6501.T>、ソニー3社の中小型LCD事業が統合し、4月に「ジャパンディスプレイ」が発足した。
しかし、テレビ事業となると、簡単にはいかない可能性がある。
JPモルガン証券の和泉 美治アナリストは、長年の競争で育まれた対抗意識や企業文化の違いなどからテレビ事業の提携は難しいとみる。「単にコスト削減が目的の提携は意味がない」と述べ、さらに提携する場合、必ずしも日本企業による提携である必要はなく、台湾企業が参画するケースもあり得る、と指摘した。
事実、韓国企業に対抗するため日本企業と台湾の受託生産会社が協力する動きが見られる。
調査会社ディスプレーサーチの駐台北グレーターチャイナ市場担当責任者David Hsieh氏は「日本企業は設備を、台湾企業は販路を必要としている。日本企業は技術を持つものの、活用できるとは限らない。そこがマッチする」と指摘。「日本(企業)のスケールは相対的に小さい。だからこそ、台湾勢と協力する必要がある。テレビ向けパネルでスケールを大きくすれば、韓国勢と肩を並べられる」と語る。
最近、一部メディアが、ソニーが有機ELテレビの量産化に向け、友達光電(AUオプトロニクス)<2409.TW>と提携交渉を進めていると報道。またシャープは台湾鴻海(ホンハイ)精密工業<2317.TW>を中心としたグループ会社4社との資本・業務提携を発表している。
台湾の業界調査会社ウィットビューの調査責任者H.P. Chang氏によれば、台湾企業に技術面の強みはさほどない。たとえ再編を望んでも、合意に至らない可能性もある。「サムスンなら、成長をじっと見守るようなことはしない。台湾企業と日本企業は協力の道を模索する必要がある」という。
<中国勢の追い上げ>
台湾企業にとって気になるのは中国企業の存在だ。今ははるか後方にいるが、その差は急速に縮まる可能性がある。具体的にはTCL<000100.SZ>、京東方科技集団<000725.SZ>などがそうだ。
ウィットビューのChang氏は「中国勢は力をつけ続けている。彼らには資金面の懸念がない」と述べ、中国企業がやがて台湾勢の脅威になると予想している。
日本企業が有機ELテレビの分野でリードを許している韓国企業との提携を模索する可能性も、当然ながらある。昨年解消したが、ソニーとサムスン電子の液晶パネル合弁事業という例もある。
メリツ証券(ソウル)のアナリスト、Ji Mok-hyun氏は「有機ELは次世代のテレビディスプレーとなる見込みで、しかもこの技術にはまださほど投資されていない。日本企業はおそらく、有機EL事業で台湾企業だけでなく、サムスンやLGとの提携も検討するだろう」と述べた。
現在、韓国勢には日本よりも優位に立っているという自信がうかがわれる。
サムスンのある幹部は、匿名を条件に「テレビ市場でわれわれは6年間、首位に立っている。日本企業が大規模だが利益が出ないテレビ事業に固執するのは、レガシービジネスという理由だけだと思う」と語った。
LGディスプレーのJames Jeong最高財務責任者(CFO)はロイターに対し「(有機ELの供給における)協力について、日本企業を含むテレビメーカーに打診している。敵視していなければ、ディスプレー事業で協力や提携の機会は多々ある」と語った。
LG電子のある幹部は匿名を条件に、日本側には製品の技術革新、サプライチェーン(供給網)管理、意思決定の遅さ、輸出よりも国内市場を重視する点に問題があると指摘した。
「水泳競技のようなもの。リードしている選手もどんどん先に進むから、いったん差がつくと、急激に縮めるのはかなり難しい」と語った。
(Tim Kelly、Clare Jim記者;翻訳 武藤邦子;編集 山川薫)
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