7月24日、韓国では退職時の平均年齢が58歳と、世界的にみても比較的若いうちに引退生活に入る。だが、ゆとりのある生活が待っているかと言えば、決してそうではない。ソウルで2010年10月撮影(2012年 ロイター/Truth Leem)
[ソウル 24日 ロイター] 韓国では退職時の平均年齢が58歳と、世界的にみても比較的若いうちに引退生活に入る。だが、ゆとりのある生活が待っているかと言えば、決してそうではない。人々は老後の生活資金を得るため、小さな喫茶店や物品販売の店を開くなどして、相変わらず過重な労働を強いられている。
しかも、そうした店の運営がうまくいかず、多額の負債を抱える結果に終わるケースも多々見られる。
韓国のベビーブーマー世代は1955年(訂正)―1963年生まれで、約710万人に達する。だが、保健福祉省の調査によると、彼らの半分以上は老後に備えた資金手当てを行っておらず、多くの人々は借り入れ資金で自ら小規模事業を始め、生活を支えようとしている。
その結果、多額の負債を抱えたシニア世代の自営業者が急増。50歳代の自営業世帯では、平均6895万ウォン(6万0400ドル)の負債を抱え、破産の瀬戸際に追い込まれる人々も多い。
サムスン経済調査研究所のKim Sun-bin氏は「多くの人々にとって、引退したり定職がなくなった後は、自分で商売を始める以外に行くところがない」と述べている。
2011年現在、韓国では自営業者の54%が50歳以上で、その割合は2008年の47%から上昇している。高齢者になるほど抱える債務の額も多く、60歳以上の債務残高は年収の2倍近くに達する。
韓国経済は朝鮮戦争の痛手から急速に立ち直り、サムスン電子や現代自動車など世界を代表する企業も生まれているが、労働者の30%近くは小規模企業で働いている。中小企業団体によると、そうした企業の27%は債務を抱えているか、あるいは利益を上げられずにいる。
<貧弱な年金制度>
韓国では今後10年間に310万人のベビーブーマーが引退する予定。政府は韓国経済を世界4位の経済国に押し上げた彼らを支援する必要性を認識しているが、今のところ具体的な対策は打ち出せずにいる。
韓国の年金制度は貧弱で、平均受給額は月30万ウォン(260ドル)に満たない。しかも、年金制度が確立されたのは1988年になってからで、年金当局によると、65歳以上の高齢者の72%は受給資格を持たない。
李明博大統領は今月、「ベビーブーマー世代は自分のことを考える時間もないまま走り続けてきた人々だ」と語り、彼らの問題に取り組んでいく考えを示した。
だが、少数与党政権を率いる李明博大統領にとって、12月の大統領選挙を控えて実のある対策を講じるのは容易でない。
政府は雇用期間の延長、起業に向けた支援金の拠出、教育機関の開設などを通じ、ベビーブーマー世代を支援したと考えているが、実現の見通しは立っていない。
労働省の当局者は「われわれは依然、これらの政策を行う予算承認を待っている段階にある。雇用期間の延長が実現するのは早くとも来年6月になる見込みだが、法案が成立するのか、あるいは法案作成が6カ月以内に完了するのかどうかですら、はっきりしない」と述べている。
<高齢者の債務>
儒教に基づく価値観を重視し、質実で勤労を尊ぶ韓国社会にあって、高齢者が多額の債務を抱えている現状はいかにも皮肉といえる。
韓国中銀のデータによると、2011年11月時点で、収入に対する債務残高の比率は40歳代で148%、50―60歳で169%、60歳代以上では193%に達している。
2011年に個人破産を申請した人々のうち、50歳代以上の割合は2011年に4分の1近くに達し、2006年の15%から上昇している。
ソウル中心部の閑静な住宅街で健康食品を売る小さな店を営んでいるOh Bok-hwanさん(55歳)は、すでに閉店した別の店を取得した時にできた借入金のうち、1990年代に4億ウォン(35万0100ドル)を返済したという。
<住宅市場の重しに>
高齢者が抱える多額の債務は、韓国の住宅市場にも影を落としている。高齢者にとっては資産の大半を不動産が占めるため、債務が過大になれば住宅の売却を強いられ、それが不動産価格を圧迫する要因となるためだ。
韓国中銀も4月に議会に提出した報告書で、「高齢者世帯における債務増大は不動産市場の安定を損なうリスクがある」と警告している。
個人事業の失敗が家族を引き裂く悲劇も発生している。
Lim Hyun-junさん(30歳)の母親は、ソウル近郊の裕福な漢南地域でソバ屋を営んでいたが、1年前に1億ウォン(8万7500ドル)の損失を抱えて店を閉じた。
Limさんは「母は自分でもできると盲目的に信じていた。私はそんなバカなことはやめろと言って店を閉じさせた。わずか3カ月の間の出来事だった」と述べた。それ以降、母親とはほとんど話していないという。50歳代の母親は、インタビューを拒否した。
(Christine Kim記者;翻訳 長谷部正敬)
*本文第3段落の年号を「1995年」から「1955年」に訂正します。
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