8月29日、銀行の自己勘定取引を制限する「ボルカー・ルール」では、流動性管理に資する勘定について適用除外が提案されているが、米銀はさらに除外の範囲を広げるよう当局に働き掛けている。写真は2009年ボストンにて(2012年 ロイター/Brian Snyder)
[ワシントン 29日 ロイター] 銀行の自己勘定取引を制限する「ボルカー・ルール」では、流動性管理に資する勘定について適用除外が提案されているが、米銀はさらに除外の範囲を広げるよう当局に働き掛けている。
しかし銀行の言い分に従えば当局の目を欺きやすくなり、米大手銀JPモルガン・チェースによる巨額損失事件の二の舞を招きかねないとの批判もある。
ボルカー・ルールをめぐってはこれまで、ヘッジ取引とマーケットメークの扱いが議論の中心で、昨年10月に提出された案にはこれらの適用除外が盛り込まれた。
しかしJPモルガンは5月、ロンドン部門のヘッジ取引が失敗して高リスク取引に「変容」し、58億ドルもの損失を招いたと公表。ボルカー・ルールの適用除外をめぐる懸念が高まった。
もっとも銀行の流動性リスク管理能力を守るために盛り込まれたもう1つの適用除外規定は、あまり耳目を集めていない。
この適用除外は、2007年から09年にかけてベアー・スターンズやリーマン・ブラザーズの破綻につながったような流動性収縮を防ぐために設計された特別な勘定が対象。
銀行側は、提案内容よりもさらに適用除外の範囲が拡大されることを望んでいる。しかし銀行に批判的な人々は、提案では既に流動性取引がほぼ完全に適用除外になっていると主張する。
米金融規制改革法の策定に携わったジェフ・マークリー上院議員(民主党)はインタビューで、流動性関連の適用除外により「ボルカー・ルールがもたらす障壁の適用可能性が大きく損なわれる」と指摘。銀行はこの適用除外規定を、JPモルガン型の巨額損失につながりかねない高リスクの取引を行う隠れ蓑に使えると話した。
銀行業界の見解は正反対だ。銀行ロビー団体である米銀行協会(ABA)とクリアリング・ハウスはことし、当局に宛てた書簡で「銀行組織の安全性と健全性が打撃を受け、米国および世界の金融システムの流動性ストレスに対する脆弱性を高める」という、意図せざる結果を招きかねない案だと訴えた。
<大きな抜け道か、健全性に不可欠か>
流動性と、その欠如は金融危機において中心的な役割を演じる。
規制当局は現在も、金融危機に耐えるために銀行がどの程度の流動性を必要とするかを見極める作業の途上にある。
ボルカー・ルール案では、資産・負債の総合管理(ALM)を目的とする幅広い勘定について、流動性の観点から適用除外としているが、銀行は除外の範囲をさらに広げるよう当局に働き掛けている。
ALMは資産と負債のミスマッチに対処する手法で、為替、金利のほか流動性問題もミスマッチを引き起こし得る要因だ。
ボルカー・ルール案では、銀行は当局に対し、適用除外となる勘定内の証券が高度に流動的で、短期の転売や利益確定ではなく、短期的な資金調達ニーズを解消する目的で保有していることを証明する流動性管理計画を提出する必要がある。
JPモルガンは巨額損失が発覚する前、適用除外の拡大を求めてロビー活動を行っていた。2月に当局に宛てた書簡では「(流動性の)適用除外は幅が非常に狭く、運用上の制約が非常に大きいため、正当な流動性管理活動の多くが禁じられる恐れさえある」と主張した。
米連邦準備理事会(FRB)のウェブサイトによると、巨額損失を出したJPモルガンのチーフ・インベストメント・オフィス(CIO)を率いていたアイナ・ドルー氏は2月、FRB当局者らと会い、ボルカー・ルール案における「流動性管理目的で取ったポジションの除外扱い」について話し合っている。
最近では、下院金融委員会のバーカス委員長がボルカー・ルールの修正案を求めたのに答え、PNCファイナンシャル・サービシズやキャピタル・ワン・ファイナンシャルなどの地銀グループが流動性勘定適用除外を取り上げた。これらの銀行は今月出した書簡で「関連リスクを適切にヘッジできなければ、銀行は伝統的な貸し出しさえ縮小するかもしれない」と警告を発した。
改革を提唱するグループ、ベター・マーケッツのチーフエコノミスト、マーク・ジャーシュリック氏は銀行側の主張に納得せず、現行案の下で既に銀行は、どの取引が流動性確保に資するかを決める過大な権限を与えられていると言う。
一方で、銀行の警告にも一理あると言う業界専門家もいる。
フェデラル・ファイナンシャル・アナリティクスのマネジングパートナー、カレン・ペトルー氏は「流動性リスク管理に関する抜け道を防ぐため(ボルカー・ルールを)厳しくすればするほど、銀行が最も重大なシステミックリスクの1つを管理することは難しさを増す」と話した。
ペトルー氏は、短期的な資金調達ニーズだけを目的とした勘定であることを証明する際の要件を減らすべきだと提言。「ボルカー・ルールは、流動性リスク管理を決して損なわない形で策定することが肝要だ」と述べた。
(Alexandra Alper記者)
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