1月29日、再び新興国市場が崩壊する兆しを見せるなか、インド政府は新たな正念場を迎えている。写真は昨年7月、ニューデリーで撮影(2014年 ロイター/Adnan Abidi)
[ムンバイ 29日 ロイター] -再び新興国市場が崩壊する兆しを見せるなか、インド政府は新たな正念場を迎えている。もっとも今回矢面に立たされているのはアルゼンチンやブラジル、南アフリカ、トルコといった国々で、投資家はインドに対してはそれほど悲観的になっていない。
インドは昨年夏、深刻な経済危機に見舞われ通貨ルピーが最安値に沈んだが、市場に叩かれて各種施策を講じてきたからだ。
世界最大の資産運用会社ブラックロック(シンガポール)のアジア太平洋債券取引責任者、ジョエル・キム氏は「為替市場の観点からみると、必要とされた数多くの調整はこれまでに実施された。とりわけルピー相場と対外収支の調整により、当社はインド債券を保有する上でずっと安心感を高めている」と述べた。
ブラックロックは現在、インド債券をアジアにおける最大のオーバーウエート対象の1つとしている。
とはいえインドの先行きにはいくつかの不確実な要素が残っている。その中でも目に付くのは、5月に行われる総選挙の結果と、金融政策が果たして成長押し上げよりもインフレ抑制を優先するようになるかどうかという問題だ。
インド準備銀行(中央銀行)は28日、新興国に広がる混乱と国内のインフレ圧力の双方に対応する形で政策金利を25ベーシスポイント(bp)引き上げた。
利上げはここ5カ月で3回目。こうした小刻みな動きはインド中銀の手腕の手堅さの表れで、通貨防衛のために大幅な利上げを迫られたトルコとは好対照をなしている。
インドはトルコと異なり、経常赤字の削減と外貨準備の蓄積を進めて昨年の危機が再来するのを防いできた。政策担当者は、足元における世界的な市場の動揺も乗り切れると自信を見せており、インドの資産はここ数日こそ活発に売られているものの、他の新興国が受けている苦しみに比べればずっと小さい。
<市場環境は改善>
今回の混乱が起きるまで、海外投資家はインド資産に買いを入れて株式投資を拡大。債券も1月は2カ月連続の買い越しになる見込みだ。
中国の製造業関連指標が悪化した23日以降は新興国から一斉に資金が逃げ出し、海外投資家はインド株・債券を10億ドル前後も売却した。それでも依然として1月は23億ドル前後の債券買い越しになる。
警戒感の広がりが示すのは、投資家がインド投資を縮小していくという展開で、つまるところ同国はいくつかの大きなハードルに直面しているという事実はある。
多くのアナリストが不安視しているのは、5月の総選挙を受けて政治基盤の弱い連立政権が生まれ、成長加速に向けた態勢が整わないという事態。同時に中銀は足取りが弱々しい成長軌道を危険にさらさずにインフレを抑えるという達成が難しい任務に携わっている。
それでも市場環境は昨年夏よりも改善した。先週のムンバイ株式は過去最高値で引けており、ルピーは27日に対ドルで昨年11月以来の低さとなったが、8月28日につけた最安値の68.85ルピーはまだ約11%も上回っている。
市況の回復には、インドが政治的に人気のない金輸入の大幅削減などを通じて経済の弱点とされる経常赤字の問題に取り組む一方、中銀が為替スワップ取引の優遇で海外から340億ドルの資金を呼び込んだことが反映されている。
中銀は28日、輸出の持ち直しもあって今年度の経常赤字の対国内総生産(GDP)比率は2.5%と、過去最悪の4.8%だった前年度から下がるとの見通しを発表した。
昨年8月時点で3年ぶり低水準の2748億ドルだった外貨準備は1月半ばまでに2920億ドルまで増加。まだ輸入の7カ月分程度だが、短期債務の1440%をカバーすることになった。
中銀のラジャン総裁は29日、アナリストとの電話会議で「今度資金流出が起きてもそれに対する備えはずっと向上している」と強調した上で、引き続き国内経済の健全化を進めていく必要があるとの見方を示した。
<十分割に合う投資>
一方でアナリストは、政府が議会に基盤を置く以上、選挙に向けて支持率上昇のために太守迎合的な政策を打ち出す誘惑に抗しきれるかどうかは確信が持てないでいる。
与党・国民会議派のラウル・ガンジー副総裁は今月、ガスボンベに対する補助金引き上げを要求。政府は金輸入規制の緩和も検討している。
ノムラ・アセット・マネジメント・シンガポールの債券ポートフォリオマネジャー、サイモン・タン氏は「われわれは引き続き経常赤字やインフレ、財政赤字を注視するとともに、選挙で改革が失速したり後戻りしないかも見極めていく」と語った。
問題は政治をめぐる不透明感だけではない。中銀が先週の諮問委員会の勧告を受け入れて、今2桁近い消費者物価上昇率を4%中心に上下2%の範囲に収める目標を採択すれば、再び成長を活性化させるのは難しくなるだろう。
HSBCグローバル・アセット・マネジメント(香港)のシニア・プロダクト・スペシャリスト・ディレクター、ジェフ・ラント氏は「双子の赤字とインフレの高止まり、政治リスク、景気減速などが投資家の心中にくすぶる懸念材料だ」と指摘した。
ただ同氏は「インドの利回りは高く、通貨は恐らく世界中で最も過小評価されているので、投資は十分に割に合うという点を強調しておく」としている。
(Subhadip Sircar、Archana Narayanan記者)
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