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コラム:アマゾンの第2本社、誘致をためらうべき理由
2017年9月19日 / 04:39 / 1ヶ月後

コラム:アマゾンの第2本社、誘致をためらうべき理由

9月15日、売り上げと時価総額で世界最大のオンライン小売り業者である米アマゾン・ドットコムが、北米に第2本社を建設する計画を明らかにし、都市から提案を募る方針を表明した。写真は同社ロゴ。6月メキシコシティで撮影(2017年 ロイター/Carlos Jasso)

[15日 ロイター] - 売り上げと時価総額で世界最大のオンライン小売り業者である米アマゾン・ドットコムが、北米に第2本社を建設する計画を明らかにし、都市から提案を募る方針を表明した。第2本社は、シアトル中心部にある本社と同格の位置づけとなる予定だ。

このような予想外の動きは、シカゴ、ダラス、デンバー、フィラデルフィア、ピッツバーグ、サンディエゴ、トロントといった大都市のあいだで、五輪のような誘致合戦を引き起こしている。

各都市の市長や有力者は、整備費50億ドル(約5535億円)の第2本社で働くことになる高給取りのアマゾン社員最大5万人を引きつけるため、税控除や整地された土地、航空機の増便や光ファイバーケーブルの敷設などを提供する準備をしている。

だが、慎重になるべきだ。アマゾン誘致合戦で勝利しても、結局のところ、割に合わない可能性がある。とりわけ、勝者があまりに多くの助成を行った場合はそうだ。「どのみちどこかで実現したであろう成長のために税基盤をあっさりと放棄する傾向を、州政府と地方自治体はこれまで何度も見せてきた」と、ブルッキングス研究所は指摘している。

多くの病んだ大都市経済はカンフル剤を打つという手もあるだろうが、アマゾン誘致はまるでヘロイン注射のようである。住宅価格を急騰させ、瞬く間に周辺地域を一変させるほどの劇的変化をもたらす。ごくわずかな地元経営者や不動産開発業者は相当もうけるだろうが、市全体としては苦境に陥りかねない。

天井知らずのシアトル住宅価格のように、数値で計れる影響もある。一方、地元色が失われるといった見えにくい他の問題もあるが、多くの住民にとってはそれも見逃せない点である。米国有数の企業を抱えるシアトルの経験は(シアトルの一等地にあるオフィススペースの19%をアマゾンが占めており、全米の都市で1企業が占める割合としては最も高い)、都市が躍起になってアマゾンを誘致すべきではない警告をいくつか発している。

筆者が暮らすシアトルは、ゴールドラッシュ以来、最大のブームを経験している。同市は現在、米国で最も急成長している都市である。筆者を含む人の流入は、「エメラルドの都」と呼ばれるシアトルに多くの試練を与えている。

住宅価格は年平均10%上昇している。賃貸住宅の家賃は全米を通して横ばいななか、シアトルのそれは上昇し続けている。人気のある地域では、やはり年間10%の上昇率だ。かつてないほどの建設ブームにもかかわらず、この傾向は続いている。

新しいマンションが建ち続け、戸建て住宅もタウンハウスに生まれ変わっているものの、供給が需要に追いつけないようだ。平均所得世帯の多くは、市内に家を所有するのが難しくなっている。長距離通勤者の数は急増し、家賃の急騰によってホームレスに追い込まれる人が増えている。

アマゾンが成長するにつれ、生活費も上昇している。賃料の高騰(2011年以降、57%上昇)は、5万人だったアマゾンの世界従業員数が35万人に増えた時期と重なる。2万5000人超と最も従業員数が多いのはシアトルだ。高学歴な社員の平均所得は10万ドル(約1100万円)以上と高額である。ビジネス誌「ファースト・カンパニー」は見出しで「アマゾンの止まらない成長が、シアトルをいかに生まれ変わらせているか」と単刀直入に表現した。

公平を期して言えば、シアトルの住宅価格の押し上げ要因はほかにもある。市内のほとんどの土地を戸建て住宅向けに区分指定している低密度の区割り、外国からの不動産投資、他のテクノロジー企業の成長、太平洋岸北西部の人気(シアトル周辺のバンクーバー、ポートランドの住宅価格も高騰)などがそうだ。

だがオレゴン州ポートランドは、テレビ番組「ポートランディア」で温かく揶揄(やゆ)されているように、今でもヒッピーのメッカであり続けている。一方、グランジロックが生まれたシアトルは全く違った都市へと生まれ変わりつつある。アマゾンがけん引して多くの人が流入したことで、シアトルの大部分で文化が様変わりした。住民たちは、大学を卒業して間もないのに6桁の給料を稼ぐ白人男性に支配されているとますます感じている。生涯の大半をシアトルで過ごしてきた人たちの不安は明らかで、感染力がある。

9月15日、売り上げと時価総額で世界最大のオンライン小売り業者である米アマゾン・ドットコムが、北米に第2本社を建設する計画を明らかにし、都市から提案を募る方針を表明した。写真はアマゾンのロゴ。2016年都内で撮影(2017年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

かつては自由奔放であった地区に長年暮らす住民たちは、自分たちのお気に入りのバーが、やかましいアマゾンの「ブログラマー(男性のプログラマーを意味するスラング)」たちに乗っ取られていると感じている。同性愛者が多く住む街として有名なシアトルのキャピトルヒルでは、酔っ払った男子学生や女子学生で一段と混雑する週末にLGBTに対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が増加している。

アマゾンは、若者に高給な仕事を提供し、技術を持つ者と持たざる者との間で地元経済を分断している唯一の企業ではない。(住民に所得税を課すというシアトル市の画期的方針転換が、アマゾンがシアトルの本社をただ拡張するのではなく、ほかの街に第2本社を置くという決断を後押ししているとみる向きもある。)

また、シアトルの成長と関連する問題の一部には、 信頼できる公共交通機関に投資してこなかったことからくる悪化する一方の交通渋滞のように、同市の先見の明のなさが原因と言えるものもある。

とはいえ、同市の最近の変化において、アマゾンは極めて大きな役割を果たしている。同社はシアトルに拠点を置く43社の敷地を合わせたのと同じ広さのスペースにオフィスや関連施設を構えている。810万平方フィートの敷地が向こう数年で1200万平方フィートに拡大し、他の大都市に構えるどのような企業も小さく見えるほどだ。金融大手シティは、都市に占める敷地面積で言えば、全米でアマゾンの次に大きな企業だが、ニューヨーク市にある370万平方フィートの敷地は、ビッグアップルの一等地のオフィススペースをわずか3%を占めるにすぎない。

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アマゾン効果は、控えめで、時に受動的に攻撃的な態度を取ることで知られるこの地域において、激しい怒りも買っている。アマゾン社員は道で嫌がらせを受けたりはしないが、別の方法で責められている。

例えば、未来のシアトルから届いた反ユートピア的なラブレターや、巨大企業のために働く生き証人を面白く描いたコミック、そして、キャピトルヒルの街路灯に定期的に貼られる、風刺が効いた反アマゾン的ニュースレターなどがそうだ。

ベイエリアの巨大IT企業に反発する抗議デモは、急成長するテクノロジー企業に経済的に分断され文化的に破壊された、かつてはファンキーだった各都市の住民の間で、こうした感情が共有されていることを示している。オークランド市長がアマゾンに中途半端な関心を示したのはそのためだ。「この巨大プロジェクトが生み出すあらゆる影響に取り組む必要があるだろう」と同市長は述べた。

アマゾンの第2本社の拠点となる都市が、シアトルが受けた衝撃を全て経験するとは限らない。より貧しい、あるいは過疎化した古い都市の多くは、自分たちの問題と引き換えにシアトルの問題を喜んで引き受けるだろう。

もっと大きな都市なら、地元の空気を失わずに5万人の新たな雇用者を受け入れることができるかもしれない。すでに退屈な都市は、脅威すら感じないだろう。安定した交通機関を持つ都市なら、アマゾンによって交通量が増えたと感じないかもしれないし、空き住宅が多くある都市の場合は、価格が天文学的なレベルまで上がることもないだろう。

だが(ギリシャ神話の)カサンドラのように、次のような警告を共有したい。「手土産をもってやって来るテクノロジー企業のCEOには用心せよ」

*筆者はシティスコープのシニアコレスポンデント。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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