コラム:コロナ対策、許されない迷走 PCR検査は周回遅れ

コラム:コロナ対策、許されない迷走 PCR検査は周回遅れ
4月16日、新型コロナウイルスの感染拡大は、世界と日本の社会・経済を大きく動揺させている。都内で撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
田巻一彦
[東京 16日 ロイター] - 新型コロナウイルスの感染拡大は、世界と日本の社会・経済を大きく動揺させている。世界のあちこちで第二次世界大戦後、経験のない大きな落ち込みを見せる経済指標が出始めているのは、感染拡大を防ぐため、人工的に人間の「移動」を止めようしているからだ。「非常事態」に直面しているのに、「平時モード」で対応すると大失敗しかねない。
政府が策定中の2020年度補正予算案に盛り込まれる30万円の現金給付は、給付条件が付いており、米欧のように迅速実施できない欠点がある。PCR検査の規模を絞りこんでクラスターつぶしを優先させる方針は、初期段階では機能したが、感染拡大期には別の「対処原則」が必要だ。感染拡大直前なのに防護服など医療物資の不足に対応できていない。政府は平時モードから早急に脱却し、コロナ感染拡大の防止を最優先に、ヒト・モノ・カネの配分を決め、直ちに結果を出してほしい。「迷走」している時間的な余裕は全くない。
<現金給付10万円、首相が補正組み換え指示>
政府は条件を付けた現金30万円の給付を前提に補正予算編成を進めているが、公明党は直ちに10万円を全国民に給付する案を政府に提案している。一部の報道では、16日朝に自公党首による電話会談があり、公明党の山口那津男代表が組み換えを要求。共同通信によると、安倍晋三首相は組み換えを指示した。
現金給付に給与水準などの条件を付けるのは、公平性の観点からみて極めて妥当な対応である。それが「平時」であれば、である。しかし、「コロナ危機」の本質は、移動制限による需要の「蒸発」にあり、生計の糧を失う人々が瞬時に大量に発生する。最も重要なのは「迅速性」だ。米国やドイツでは、すでに小切手や現金の入金を確認している人が多数いるのに対し、日本は法案の中身すら、国会に提案されていない。
安倍首相がどのような指示を出したのかはっきりしないが、条件なしに国民1人当たり一律10万円を給付することにしたなら、その決断は正しいと指摘したい。高所得者には、来年の確定申告で「コロナ対策上乗せ税」として、あらためて課税すればよい。
<PCR検査少なく、把握できない感染実態>
PCR検査についても、韓国や欧米各国と比べると、格段に検査数が少ない。本庶佑・京都大学特別教授(2018年にノーベル医学・生理学賞受賞)は複数の民放テレビ番組で、PCR検査数を大幅に増加させ、感染の実態を把握することが必要であると力説した。政府は、クラスターをつぶすことを最優先に、その目的を達成するためにPCR検査を実施する方針で対応してきた。当初は確かに感染者や死亡者数の抑制に貢献してきた。
だが、国内での感染者数が8000人を超え、「流行」の危機が迫っている中では、従来の方針にこだわらず、大量のPCR検査で実態を把握すべきだ。本庶氏は1日当たり1万件の検査をすべきだと主張しているが、15日の段階でも、検査数は1日当たり5000件に達していない。ここでも「ギアチェンジ」が必須である。
<必要な医療関連品の傾斜生産>
また、日本医師会の横倉義武会長が15日、N95マスクやフルフェイスシールドなどの医療関連品が決定的に不足し、医療崩壊の起きる可能性が強いと訴えた。
政府は、厚生労働省と経済産業省が中心になって、医療関連品の不足数を洗い出し、産業界に要請して緊急生産する体制を早急に確立するべきだ。一部の企業は、売れ残りを心配して「及び腰」との観測もあるが、政府が全量買い取ることにすれば解決する。
コロナ関連で生産シフトを企業に要請できる体制は、平時では難しい。しかし、緊急事態に直面している以上、平時のモードで時間がかかる仕組みでは、感染者や死者が急増しかねない。
<本庶氏が訴える研究・開発費の増強>
さらに付け加えたいのは、新型コロナに対する治療薬やワクチン開発などの前提になる基礎研究に大胆な予算を付けることだ。本庶氏は100億円は必要と主張していたが、マスクの2枚配布で400億円超の予算計上が行われたことと比較すれば、思い切って1000億円規模の予算を付けてもいいと思う。幸い、安倍首相は補正予算の組み換えを指示したと伝えられており、ここで列挙した項目の予算も、同時に追加してほしい。
トレードオフの関係にある問題を前にして何を優先させるのか──。この判断が政治の担う最大の機能である。「平時モード」から脱却し、国民の前に決断した結果を示してほしい。
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編集 高木匠

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