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コラム:広がる米欧との成長率格差、マネーの日本回避は23年まで継続か=唐鎌大輔氏

[東京 19日] - 内閣府が16日に発表した2021年4─6月期国内総生産(GDP)は物価変動の影響を除いた実質ベース(季節調整値)で前期比プラス0.3%、年率換算では同1.3%だった。日本経済研究センターのまとめる「ESPフォーキャスト」における予想中央値(前期比・年率プラス0.66%)も上回っており、仕上がり自体は「強め」と評価すべき内容である。

 内閣府が16日に発表した2021年4─6月期国内総生産(GDP)は物価変動の影響を除いた実質ベース(季節調整値)で前期比プラス0.3%、年率換算では同1.3%だった。唐鎌大輔氏のコラム。写真は18日、スカイツリーから見た都内の景色(2021年 ロイター/Marko Djurica)

「強め」となった最大の背景は民間最終消費が前期比プラス0.9%、その中核となる家計最終消費が同0.8%と伸びたことだった。エコノミスト予想を集計する「ESPフォーキャスト」では民間最終消費はマイナス0.1%超と減少が見込まれていたので「真逆」の結果となった。

<緊急事態宣言の「形骸化」示した4-6月GDP>

消費に何が起きていたのか──。そこで家計最終消費を形態別(耐久財・半耐久財・非耐久財・サービス)に詳しく見ると、サービス消費がプラス1.5%と大きく伸びたことが分かる。旅行や外食、その他娯楽などが包含されるサービス消費は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による影響を最も受けやすいはずだが、ほぼ緊急事態宣言下にあったはずの4─6月期でも大きく伸びた。

宣言対象地域が限定されていたため、従前の緊急事態宣言と同様のダメージを想定するのは適切でないが、サービス消費の加速は市場の内外で取りざたされる緊急事態宣言の「形骸化」を象徴するような動きと見受けられる。統計発表後の会見で、西村康稔・経済再生相が「正直に言って非常に複雑な思いだ」と述べたことが全てを物語っている。

また、耐用年数が比較的短く、耐久財(自動車など)に比べて高額ではないモノは半耐久財と分類され、衣類、履物、鞄、靴などが対象となるが、これも同1.9%と大きく伸びている。

半耐久財が前期比で増加したのは2019年7─9月期以来、7四半期ぶりである。「自粛せずに外に出る」という消費者行動に伴って、それまで出番の少なかった半耐久財を求める行動が表出したのではないだろうか。

とはいえ、今回見られた消費の力強さは、あくまで抑圧されていた需要(ペントアップディマンド)の結果であり、日本経済の力強さを示す内容ではないだろう。雇用者報酬はマイナス1.4%と昨年4─6月期以来、1年ぶりの大幅減少を記録している。

見通せる将来において日本で行動制限が解除される雰囲気は全く感じられないが、仮に行動制限が解除されたとしても、消費をたきつける雇用・賃金情勢は心強いトレンドではない。

<半導体不足のによるマイナスは低減へ>

一方、家計最終消費と並んで内需のもう1本の柱である設備投資の伸びは同1.7%と概ね予想通りだった。企業部門に関連して今後、注目すべきは民間在庫投資である。今回、民間在庫投資は実質GDP成長率全体に対して、マイナス0.2%ポイントのマイナス寄与となった。

半導体供給に制約がある中で自動車など生産活動にも影響が出ており、在庫取り崩しが先行していることの結果と推測される。現在報じられる材料を見る限り、半導体の供給制約は来年初頭まで続くとの見方が多く、生産活動が本来の能力を発揮するまでに時間を要しそうだ。

もっとも、供給制約の度合いが徐々に緩和されてくると考えれば、半導体不足が成長率を押し下げる度合いも徐々に小さくなると考えるのが自然だろう。

<楽観的な内閣府予想>

4─6月期のマイナス成長回避という事実は喜ばしいが、同じ期間の海外の成長率(前期比)は、米国がプラス1.6%、ユーロ圏が同2.1%である。

新型コロナウイルスの感染拡大から1年超が経過し、日本の成長率が欧米の成長率の半分にも満たないという事実は重い。ここまで出遅れたことで「コロナ前の水準復元」の時期も相当先延ばしになりそうだ。

7月に内閣府が発表した2021─2022年度の経済見通しはワクチン接種に応じた国内消費の持ち直しや海外経済回復に伴う設備投資および輸出の持ち直しの結果、実質GDP成長率が2021年度に同3.7%、2022年に同2.6%になると予想した。

この予想通りに7─9月期、10─12月期に等速で成長した場合、今年末の実質GDPは絶対額で548.7兆円程度まで回復する。これは2019年10─12月期の547兆円を超え、一応は「コロナ前を復元」ということになる。

しかし、2019年10─12月期は消費増税や台風19号の影響で、当時としては5年半ぶりの低成長(前期比マイナス1.9%)を経験し、大きく落ち込んでいたる。名実ともに「コロナ前を復元」と主張するには2019年7─9月期の水準(557兆円)まで回復することを期待するのが筋だろう。

内閣府予想が実現すれば、2022年4─6月期にはこの水準を超えてくるはずだ。だが、変異株の感染拡大やこれに伴う緊急事態宣言の対象地域拡大を踏まえれば、もはやそうした展開にはなりそうにない(そこまでの事態悪化を7月公表の予想では想定していない)。

<コロナ前へ復活するのは2023年以降>

2019年7─9月期までの3年間(12四半期)の成長率は平均プラス0.2%だった。仮に2021年7─9月期以降、このペースで成長すると仮定した場合、557兆円を超えてくるのは2024年10─12月期になる。とはいえ、感染の収束に伴うペントアップディマンドが発揮されることを思えば、こうした成長軌道は保守的な想定に過ぎるだろう。

楽観的な内閣府見通しを1)そうした保守的な想定を2)とした場合、その中間の3)の成長軌道を描くとしたら、2022年10─12月期には557兆円を超えられそうである。

上述のように、1)の内閣府シナリオはかなり楽観に傾斜している事実を踏まえれば、3)のような中間シナリオもやや割り引いて受け止める必要があるだろう。とすれば、日本経済がコロナ以前の水準を名実ともに復元してくるのは2023年に食い込む可能性も見えてくる。

既にコロナ前の水準に復元を果たした中国や米国、年内の復元が確実視される欧州との距離は、あまりにも大きいと言わざるを得ない。

こうした実体経済の現状と展望に関する格差が、そのまま株価や為替など、資産価格の見通しに反映される可能性が非常に高い。実際のところ、主要国の株価指数において日経平均株価の出遅れは鮮明であり、日本以外の先進国では軒並み年初来で10%前後の上昇率を実現しているが、日本は概ね横ばいである。

主要通貨の名目実効為替相場を見ても、円の軟調さは際立っており、もはや新興国通貨に対しても上昇が確保しにくくなっている。そうした中、債券(金利)市場だけが穏当なのは金融政策による統制が効いているからなのだろう。

むしろ、株式市場や為替市場の光景と債券市場のそれが、あまりにも違うことに違和感を覚えるのが自然である。

現在継続中の緊急事態宣言は9月12日までの延長が決断され、菅義偉首相から「今回の宣言を解除する前提は、国民の命と健康を守ることができる医療提供体制の確保」との言及があった。

それが一朝一夕に済む話でないことは「素人目」にも感じられる。だとすれば、「日本だけコロナが終わらず」という現状のような構図の下で、金融市場における日本回避の動きは今後1年以上、続いてしまう可能性が高いのではないだろうか。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。06年から日本経済研究センター、07年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

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