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アングル:救急通報もダウン、レバノンに電話とネット停止の危機

[ベイルート 13日 トムソン・ロイター財団] - レバノン国民は食品や燃料の価格高騰、深刻な電力不足、通貨下落の進行といった打撃に苦しんでいる。さらにここへ来て、生活に欠かせない2つのインフラへのアクセスが絶たれる懸念が生じている。携帯電話とインターネットだ。

 9月13日、レバノン国民は食品や燃料の価格高騰、深刻な電力不足、通貨下落の進行といった打撃に苦しんでいる。写真は2020年8月に発生したベイルートの大爆発事故の跡地。8月撮影(2022年 ロイター/Issam Abdallah)

レバノンの救急サービス電話「140」は、レバノン赤十字社によって運営され、1日560件の救急通報に対応している。先週、回線がダウンしたため、レバノン赤十字社では臨時の番号をツイッターとフェイスブックに投稿した。

「問題は、インターネットにアクセスできる人がそれほど多くなく、したがって投稿も読んでもらえないという点だ」。レバノン赤十字のナビー・ジャブル事務次長はトムソン・ロイター財団の取材に対し、こう明かした。

代替となるインターネットベースのVoIP回線は、救急要請に対応するには能力不足だという。また、国営通信会社オジェロが運用するネットワーク伝送設備を稼働させるための燃料が不足しているため、通常の電話回線と同じようにダウンするリスクがある。

財政破綻状態にあるレバノン政府は発電所の稼働を維持しようと苦慮しているが、住宅向けの電力供給が1日わずか1時間に留まることも多い。経済的に余裕のある家庭ではディーゼル燃料を購入して自家発電を行っている。

「通常の電話回線とVoIP回線の双方がダウンしたら、もちろん救急車を呼ぶこともできなくなる。そうなると病院への患者搬送が大きく遅れるか、安全性に問題のある一般車両で搬送することになる」とジャブル副総裁は言う。「要は、通信手段の喪失は生命の損失につながりかねない」

ジョニー・コーム電気通信相は今月初め、政府からディーゼル燃料輸入代金の提供を受けられなければ、オジェロは全国レベルでのサービス提供を停止するだろうと警告した。そうなれば、レバノンにおける電話とインターネットのサービスが消滅することになる。

レバノン国民600万人にとっては、かつてないほどの困難な状況のなか、さらに通信が不可能になり、雇用も生命も脅かされることになる。

2019年以来、通貨レバノン・ポンドの価値は90%以上も下落した。食料価格は11倍以上に高騰、人口の80%以上が貧困ラインを下回る生活に陥った。

さらにオジェロの職員が8月、給与をめぐって無期限のストライキに入った。それ以降、電気通信ネットワーク関連の保守作業がストップしている。

<自殺予防ホットラインも休止>

レバノン唯一の自殺予防ホットライン「エンブレース」も苦境に陥っている。エンブレースの共同創業者であるミア・アトウィ代表によれば、オジェロのサービス途絶により、ホットラインが終日接続できなくなることもあるという。

「回線がダウンし、ホットラインに電話しても必要とする支援を得られない人が増えている」とアトウィ氏は言う。ベイルート港での大規模爆発事故や新型コロナ禍、経済危機により、2020年以降、ホットラインにかかってくる電話は急増していたという。

アトウィ氏は、医師や看護師がよりよい就業機会を求めて国外に流出している状況に触れつつ、「さまざまな危機が重なり、医療専門家も不足していることで、こうしたホットラインを必要とする人が増えている」と語る。

かつて中東随一の水準とされていたレバノンの医療体制は、病院や診療所が財務面の問題や資金不足、さらにはスタッフの離脱に悩まされる中で、崩壊しつつある。

抑うつ症状や燃え尽き症候群に苦しむレバノン国民は多いが、メンタルヘルスの実務関係者によれば、所得が目減り、ほとんどの市民は治療代金を払う余裕をなくしているという。

アトウィ氏は「危機的な段階にある。できる限り多くの人を支援する必要がある」と述べた。ホットラインにかかってくる電話でも、電話代を気にして、折り返し電話をかけてほしいとオペレーターに頼む人が増えているという。

「ところが最近ではしょっちゅう回線がダウンする。電話を受けることも、かけ直すこともできない」

オジェロが燃料輸入費を捻出するために、7月には電話料金が5倍に値上げされた。多くの人にとって、電話さえ高嶺の花となりつつある。

通信量上限16ギガバイトのプリペイドカードの価格は、8月時点での4万レバノン・ポンド(非公式レートで約1ドル)から、現在では22万レバノン・ポンド(同じく約6ドル)に上昇した。

<インターネットなしでは仕事にならない>

電話やインターネットの料金高騰は、救急要請や自殺防止ホットラインへの相談に悪影響を与えているだけではない。多くのレバノン国民にとって、生計を立てることさえ不可能になりつつある。

ラナ・カリルさん(24)は、ベイルート郊外でフリーランスのコピーライターとして働いている。7月にブロードバンド回線が値上げされて払いきれなくなり、ノートパソコンをインターネットに接続するために携帯電話のテザリングを使うようになった。

「乏しい現金をインターネット接続サービスのために使わなければならない。信頼性も低く安定しないくせに、料金は大幅に跳ね上がる」とカリルさんは言う。そのストレスとデータ通信料金の高さのせいで、何か仕事をしようというモチベーションさえ削がれてしまうと言葉を添える。

「稼ぎの残りの部分で家賃を払うのがやっと。そのうち、目が覚めたらまったくインターネットを使えなくなっているのではないかと心配している。ネットがなければ仕事もできず、結局は住む場所も失ってしまうだろう」

老朽化している第2世代(2G)ネットワークに通信を頼っている推定23万人にとって、状況はさらに悪い。デジタル人権擁護団体SMEXのアベド・カタヤ氏によれば、その多くは農村地域の住民やテクノロジーの知識に乏しい高齢者だ。

政府は5月、2Gネットワークのサービス終了を予定していると発表した。サービス終了期日は未定。より高速でインターネット利用が可能な3Gネットワークに接続できるスマートフォンを買う余裕がない人々が、通話やテキストメッセージといった基本的な機能のために利用しているのが2Gネットワークだ。

レバノン南部デイリンタル村で暮らすムハマド・アルアリさん(42)は、ブドウやリンゴ、ベリーといった生鮮果実を国内の農家から商店へと直送する仲買人として16年間働いてきた。

アリさんは、政府が2Gネットワークを停止したらビジネスができなくなると懸念している。

「電話が使えなければ、配達の注文も受けられないし、仕事にならない」。スーパーマーケットの配送の仕事に応募したが不採用となった。

「仕事がなくなれば、妻と娘を養うこともできない。友人や家族から借金するか、街頭で物乞いをするしかない」と、アリさんは言う。

(翻訳:エァクレーレン)

*本文中の誤字を修正しました。

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