May 17, 2019 / 2:14 AM / 7 days ago

焦点:メキシコの「格付け危機」、石油ナショナリズム暗礁に

[メキシコシティ 14日 ロイター] - メキシコのロペスオブラドール大統領は12月に就任した際、国営のメキシコ石油公社(ペメックス)を再生し、海外投資に歯止めをかけることで、石油資源の富をより多く国民に分配すると公約した。

 5月14日、メキシコのロペスオブラドール大統領は12月に就任した際、国営のメキシコ石油公社(ペメックス)を再生し、海外投資に歯止めをかけることで、石油資源の富をより多く国民に分配すると公約した。写真はぺメックスのタンカートラック。メキシコのモンテレイ郊外で1月撮影(2019年 ロイター/Daniel Becerril)

「石油ナショナリズム」を掲げる左派の同大統領の構想には、総工費80億ドル(約8800億円)を投じた新たな精製所の建設、既存の精製所の改修、減少する原油生産の回復などが含まれている。

問題は、世界でもっとも大きい負債を抱えた石油会社に対する、こうした費用のかかる計画を警戒した格付機関が、同社の社債に対する評価を「ジャンク(投機的等級)」に引き下げると警告している点だ。

格下げは、大統領の掲げたエネルギー関連の大胆な政策目標に加え、新たな石油収入を社会福祉プログラムの原資として役立てる計画も危うくなる。メキシコ国債の信用にも悪影響が及ぶ可能性がある。

1060億ドルの債務を抱えたペメックスの社債を多くの投資家が投売りすれば、同社は借り入れコストの急騰に直面するだろう。

ブラジル国営石油会社ペトロブラスの場合、2015年に410億ドル相当の社債が「ジャンク」扱いとなったことで、資金調達コストは年間16億ドルから88億ドルへと跳ね上がった。

メキシコの選択肢は限られている。

社債格下げの回避には、同社からの税金を軽減、油田・ガス田開発における民間パートナーシップを拡大、そして新たな精製所建設を中止する必要があることが、世界の大手資産運用会社10数社の投資家やペメックス元幹部、財務省当局者らへの取材で明らかになった。

メキシコ政府は13日、ペメックスの負担軽減に向けた複数の措置を発表。それらは段階的な減税、25億ドル規模の債務リファイナンス、銀行3行による既存与信枠の拡大などである。

だが、大統領や政府高官による鳴り物入りの発表も、懐疑的な見方を打ち消すことはできなかった。

「ペメックスの事業計画の長期的な存続可能性については、依然として大きな疑問符がついている」と語るのは、ペメックス社債の大口保有者である資産運用会社T・ロウ・プライス・アソシエイツで新興市場担当アナリストを務めるアダム・ギフォード氏だ。

メキシコで初めて海外・民間の石油会社が、単独あるいはペメックスとの合弁事業によって、同国の油田・ガス田を開発することを認めたエネルギー市場自由化の流れは、ロペスオブラドール大統領の誕生によって中断されてしまった。

大統領は今月、民間事業者では要求通りの予算や3年の期限を守れないため、新たな精製所はペメックスが建設することになると発表。この精製所は大統領の地元、タバスコ州に建設される予定だ。

格付機関ムーディーズは13日、この決定を批判し、計画よりも工期が延び、コストも50%超過する恐れがあると警鐘を鳴らした。

「メキシコの信用状態に与える影響は、1つには、メキシコが今後も市場の信頼感を損ない続け、ただでさえ低調な投資をさらに落ち込ませ、自国の経済展望を圧迫するかどうかで決まる」とムーディーズは声明で述べた。

<精製所はトラブル続き>

メキシコ政府は、新たな精製所について来月建築着工、2022年5月までの完成を計画している。大統領も、ペメックスの既存精製所6カ所について、事故が起きやすく、稼働率は生産能力の40%にとどまり、何年も赤字運営を続けているとして、その刷新を望んでいる。

だが、石油業界の専門家のなかには、ペメックス財務状況では同大統領の計画を支えきれないという声も上がっている。

格下げ回避には精製所の新設を中止するしかない、とペメックスの元幹部は語った。別の元幹部は、ペメックスは民間石油会社との協業を「必死に」進め、より多くの資金調達に向けて努力すべきだと述べた。

大統領は、ペメックスの生産・精製能力拡大を約束している一方で、民間、特に海外企業によるエネルギー投資におおむね懐疑的だ。汚職や燃料の横流しの摘発によって同社の財務を改善し、採掘容易な石油油田を活用することで、生産量を増やせると主張している。

だが一部閣僚は、海外投資の活用によってメキシコは石油生産量を回復できると認めている。

「政府単独では無理だ」とエネルギー相のナレ氏は先月、石油企業幹部向けの講演で述べた。また、格付機関各社に対して、ペメックスの社債について「責任ある」評価を求めた。同社が「過去の放漫経営」のツケを払う中であっても、債務返済の義務を果たしていると述べた。

ペメックスの債務は前政権下で75%増加し、年金債務も含めた債務総額は現在、総資産総額を700億ドル以上も上回っている。

ナレ・エネルギー相によれば、ペメックスはすでに経営転換を始めており、新政権下では、さらなる債務拡大を食い止めているという。「われわれは生産と開発に投資している。また、より多くのガソリンと高付加価値品の生産に向けて投資している」

<「恐怖の連鎖」>

国会で中道右派の野党・国民行動党を率いるファン・カルロス・ロメロヒックス氏など、大統領の計画に批判的な人々は、現大統領はペニャニエト前大統領の路線を踏襲し、民間資本へのエネルギー開発分野の自由化を続けるべきだった、と主張している。

逆にロペスオブラドール大統領は、新たなリスクをペメックスに押しつけている、というのが同氏の意見だ。

「これは恐怖の連鎖だ。そしてその恐怖は、戦略的産業分野で公共財政の混乱を生んでいる」とロメロヒックス氏は言う。

格付機関のフィッチやS&Pグローバル・レーティングは今年、ペメックスのスタンドアローン(単独ベース)評価を切り下げて見通しはネガティブとして、同社財務を危険水域に近づけた。

ペメックスの長期対外債務格付けはフィッチが「BBBー」、ムーディーズが「Baa3」で、いずれも、ジャンク級の1つ上に当たる。

S&Pは3月、メキシコ格付けが12カ月以内に引き下げられる確率は3分の1だとして、重要なリスク要因としてペメックスを挙げた。

主要格付機関3社のうち2社がペメックスをジャンク級に格下げした場合、ジャンク資産保有を禁じている債券保有者は、同社の社債を売却せざるを得なくなる。投資銀行JPモルガンが2月公表したリポートでは、その場合、830億ドル相当のペメックス社債のうち、160億ドル分が放出されると試算している。

こうなると、ペメックスは世界最大の「フォーリン・エンジェル(堕天使)」となる。これは、投資適格からジャンクへと転落した発行体を示す不名誉な称号だ。

<重い税負担>

財務の脆弱さという面で、重要な要因になっているのが、ぺメックスが抱える重い税負担だ。平均税額は、同社の利払い・税・償却前損益(EBITDA)の8割を超える。

格付機関各社は、これほどの税負担が続けば、ペメックスの財務状況は悪化していくだろうと予想する。

ロペスオブラドール大統領は2月、40億ドル近い公的資金をペメックスに注入した。これに先立ち、同社向け2019年度予算を34億ドル増額し、計140億ドルに引き上げている。

2024年までに原油生産量を約50%増やし、日産250万バレルにするという現大統領の目標を達成するために必要とする資金は、はるかに大きい、とメキシコの石油監督当局を以前率いていたファン・カルロス・ゼペダ氏は言う。

開発・生産向けの必要額は年約200億ドルに達するという。

ロペスオブラドール大統領は13日、ペメックスについて、期間を定めずに300億ペソ(約1700億円)の減税を行うと述べた。同社は昨年、270億ドル相当の税金を納めている。

だが、ペメックスに対する減税措置をさらに大きくすれば、税収の15%を同社に頼っている連邦予算に不足が生じるだろう。

政府は、緊急事態を想定した財政安定化基金を、ペメックスの財務強化に投じることも検討している。これは過去にない措置だ。

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だが、本格的な減税が行われなければ、このような措置は短期的な解決策にしかならない、と最近までペメックス社債を保有していたGAMインベストメンツで新興市場債券担当のファンドマネジャーを務めるドース・ニールセン氏は指摘する。

「それは、単に問題を来年に先送りするだけだ」と彼女は付け加えた。

(Stefanie Eschenbacher記者、David Alire Garcia記者、翻訳:エァクレーレン)

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