3月22日、米アップル<AAPL.O>や米グーグル、米アマゾン・ドット・コムなどの巨大IT企業が、音楽ストリーミング市場に本格的に乗り出そうとしている。2011年10月撮影(2013年 ロイター/Yuriko Nakao)
[サンフランシスコ 22日 ロイター] 米アップルや米グーグル、米アマゾン・ドット・コムなどの巨大IT企業が、音楽ストリーミング市場に本格的に乗り出そうとしている。
ただ、この分野の先駆け的存在である米ネットラジオ局のパンドラが示すように、収益化はそう簡単にはいかないようだ。
アップルの携帯型デジタル音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」が登場してから10年余り。関係筋によると、今ではアップルのほか、グーグルやアマゾンといったシリコンバレーの巨大企業がこぞってレコード業界の幹部を引き抜こうと動いているという。このほか、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)大手の米フェイスブックや米ツイッターもこの流れに乗っている。
こうした企業は、音楽ストリーミングサービスについて、急成長するモバイル分野で自社のプレゼンスを高める上で不可欠だと考えている。グーグルとアップルにとっては、自社のモバイル製品に確実にユーザーをつなぎとめることが重要だ。
今ではスマートフォン(多機能携帯電話)とタブレット端末がパソコンに取って代わり、これまで個々のパソコンに保存されてきた音楽はクラウド上のストレージで保存できるようになった。
調査会社コムスコアが2月に発表した調査によると、スマートフォン利用者の約48%がスマホで音楽を聴いていると回答し、交流サイト、ゲーム、ニュースに次いで、よく利用するメディア関連サービスの第4位となった。調査はモバイル端末を購入する検討要因も10段階で尋ねたが、音楽やビデオの視聴は7.4となり、重視されていることが分かった。
韓国サムスン電子に買収されたオンライン音楽配信サービス、エムスポットのダレン・ツイ最高経営責任者(CEO)は、「音楽は、サムスンが製造するさまざまな電子機器にとって戦略的に極めて重要」と語る。サムスンは昨年5月に同社を買収し、欧米市場に投入した主力携帯機器「ギャラクシーS3」で利用できる新たな音楽サービス「ミュージック・ハブ」を発表した。
また今年1月には、ヒップホップ界で大きな影響力を持つプロデューサーのドクター・ドレー氏と、ユニバーサル・ミュージック傘下のインタースコープ・レコーズで会長を務めるジミー・アイオビン氏が共同で創業した米ヘッドホンメーカーのビーツ・エレクトロニクスが、有料音楽配信サービス「プロジェクト・デイジー」を今夏に開始すると発表した。ビーツは、パンドラとスポッティファイに対抗するとしている。
業界関係者は、ここにアップルやグーグルなどの巨大企業が参入するとみている。関係筋によると、アップルは現在、自社の音楽・動画配信サービス「iTunes Store(アイチューンズ・ストア)」に有料サービスを追加しようと、複数の音楽会社と協議を行っているという。一方、グーグルは動画共有サイト「ユーチューブ」での有料音楽サービスを計画していると報じられている。
これについて、ユーチューブの広報担当者は「広告に加え、有料サービスからも利益が得られると考えるクリエーターがおり、検討はしている」と述べたが、詳細についてはコメントしなかった。
アップルもコメントを差し控えた。
また、米マイクロソフトもすでに家庭用ゲーム機「Xbox」で音楽配信サービス「Xboxミュージック」を始めているが、同社の参入は業界に変革をもたらし、音楽ストリーミングが主流となる原動力となるだろう。
<モバイルで聴く音楽愛好家>
音楽ストリーミングは近年、パンドラなどが提供するアプリを通じて、その利用者は増加。定額料金でほぼ無制限に視聴できる広告なしの有料サービスは比較的新しく、急速に人気を伸ばしている。
国際レコード産業連盟(IFPI)が最近発表したリポートによると、こうした有料サービスがデジタル音楽配信の収益に占める割合は、2012年に初めて10%を超えたとみられている。
同年のデジタル音楽の世界売り上げは前年比9%増の56億ドル(約5290億円)で、CDなどの売り上げ減少を補った。これを受けて、デジタルやCDなどを合わせた全体の音楽売り上げも前年比0.3%増加し、1999年以来13年ぶりに前年を上回った。
スポッティファイのダニエル・エクCEOは先週、ロイターとのインタビューで、真の音楽好きなら、月に数百ドルはかかると指摘。「有料サービスは大半の人にとって、はるかに優れたサービスであることは明らかだ」と話した。
ニールセン・エンターテインメントのデービッド・バクラ氏によると、米国では今年1000億曲がストリーム配信されると見込まれている。ただ、「大きな問題は、実際に機能するビジネスモデルを誰が手にするかだ」と同氏は指摘する。
アップルのティム・クックCEOは最近、ビーツのアイオビン氏らと会い、有料音楽配信サービスについて意見を交わしたが、アップルがビーツのサービス「プロジェクト・デイジー」に参加するかは明らかになっていない。
<高額な楽曲の利用許諾料>
実際のところ、音楽ストリーミングから収益を上げるのは難しい。同サービスの主要な担い手であるパンドラやスポッティファイは、その資金調達力や数百万人いる会員数にもかかわらず、1セントすら利益を計上したことがない。
そして、同サービスに懐疑的だったのは、ほかならぬアップルの故スティーブ・ジョブズ前CEOだった。同氏は2007年、ロイターとのインタビューで「絶対とは言えないが、顧客が興味を持っているようにはみえない」と語っていた。同社の現幹部らは音楽ストリーミングについての見解を公にはしていない。
2011年に上場したパンドラは現在、世界の月間ユーザー数が6700万人に上り、前年比で41%増加した。しかし、今年1月末までの1年間で、同社の損失は前年比2倍以上となる3810万ドルに上った。これは、高額な楽曲の利用許諾料が原因とされており、通常1曲当たりに著作権料が課される。このため、広告を主な収入源とするパンドラは、1カ月当たりの無料視聴時間を40時間に制限することを余儀なくされている。
パンドラや他の音楽配信サービスを提供する企業は現在、米議会に対し、ラジオの他の形態に適用されているのと同じ水準の印税率を求める法案の可決を訴えている。
しかし、米歌手ビリー・ジョエルやR&B歌手リアーナら125人のミュージシャンが、同法案が印税の85%を削減することになるとして反対の声を上げている。
レコード会社やミュージシャンがどのように対価を得るかという問題は、音楽配信サービスの成長にとって最大の阻害要因の1つだ。また、競争が「勝ち組」と「負け組」を生み出し、企業は淘汰(とうた)されることを余儀なくされるだろう。
そして、アマゾンやグーグルといった巨大IT企業がそのマーケティング力を発揮すれば、これは一気に加速する可能性がある。
もちろん、ばく大な数のオンライン顧客を活用できるアップルは言うまでもない。アップルは自社製品の「共食い」により、楽曲の売り上げ低下を招く可能性があったとしても、他社の参入を許さず、自社で統括することを選んできた。
こうした巨大企業と真っ向勝負をしようとするスポッティファイのエクCEOは「巨大企業が周辺的な事業で新しい方法を考えつくのはまれ」だとし、「グーグルやアップルだけに世界が支配されることにはならない。ゲームではEA(エレクトロニック・アーツ)、動画ではネットフリックス、音楽ではスポッティファイといったように、各分野に長けた会社が力を発揮するだろう」と語った。
(原文執筆:Poornima Gupta記者、Ronald Grover記者、翻訳:伊藤典子、編集:橋本俊樹)
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