アングル:半導体装置の輸出管理強化、日本も開始 中国報復に身構え

アングル:半導体装置の輸出管理強化、日本も開始 中国報復に身構え
日本の半導体製造装置の輸出管理強化が23日に始まった。先端半導体の軍事利用を防止することが目的だが、先行する米国のように中国を名指ししてはいない。写真は2022年2月撮影(2023年 ロイター/Florence Lo/Illustration)
杉山健太郎 Tim Kelly Karen Freifeld
[東京/ニューヨーク 24日 ロイター] - 日本の半導体製造装置の輸出管理強化が23日に始まった。先端半導体の軍事利用を防止することが目的だが、先行する米国のように中国を名指ししてはいない。それでも中国は報復とも取れる動きをすでに見せており、日本は過度に中国を刺激することを避けつつ規制内容が違う米国と足並みを揃え、実効性を確保する難しい舵取りを迫られる。
<日米で規制に違い>
「今後具体的な検討が進むものと思われますが、具体的措置を検討する際には、連携内容を連携国間で十分擦り合わせた上で、打ち出すのは同時に行っていただくことを強く要望致します」──。
今回の輸出規制強化の根拠となる外為法の省令を改正するに当たり、経産省が実施したパブリックコメント(意見募集)にはこんな声が寄せられた。「本来避けることができたフリクション(摩擦)が生じた」としており、日米間で規制内容が異なるため企業側に混乱が生じていることを伺わせる。
米国は昨年10月、軍事力強化につながる恐れがあるスーパーコンピューターや人工知能(AI)向け半導体の開発を抑え込むことを狙い、中国を名指しして技術輸出に広く網をかけた。回路線幅14ナノメートル(ナノは10億分の1)以下の先端ロジック半導体などの開発・製造に使われるものの輸出はすべて事前申請が必要で、原則不許可となる。
一方、米国に歩調を合わせて今年春に輸出管理の強化を決めた日本は仕向地を絞らず、対象を成膜や露光装置など23品目に限定した。輸出管理体制の状況などを踏まえ米国など42カ国・地域向けは包括許可に、中国を含めその他向けは輸出契約1件ごとの個別許可とした。
本来、通常兵器や軍民両用技術の輸出管理は、多国間の紳士協定ワッセナーアレンジメント(WA)で参加国すべてが合意して規制するのが理想的だ。しかし、半導体製造装置は技術を保有しているのが米国、日本、オランダに限られるため3カ国が先行して管理を始めることになった。
5月の主要7カ国(G7)首脳会議で一致したように、日米は中国リスクを低減させることの重要性を共有している。しかし、WAは国や地域を特定しないことから、日本政府の中には今回の米国のやり方を強引と見る向きもある。「(特定の国を)名指しする米国のやり方には少し違和感がある」と、日本の政府関係者は語る。「(昨年11月の)中間選挙前に発表されたこともあり、政治的に見えてしまう」。
<「何かやり返してくる」>
日本が中国を対象として明確化しないのは、外為法が規制相手を名指ししない法体系になっているためだが、過度に中国を刺激したくないという思いも透けてみえる。名指ししてもしなくても「実質的な効果は変わらないのに、あえて相手の面子をつぶしてエスカレーションさせることはしない」と、別の政府関係者は言う。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「法体系の問題というよりは、中国を名指しにすれば関係が著しく悪化してしまうという背景の方が強いのではないか」とみる。「日本は米国に比べ依然として経済的に中国依存度が高く、そこが急激に落ちてくると相当な打撃につながってくる」と指摘する。
日本が懸念していることの1つは中国の報復で、3月に輸出管理強化の内容を発表した際、中国商務省は「日本が二国間の半導体産業における協力を妨害すると主張するなら、中国は自国の権利と国益を守るために断固とした措置を取る」と反発した。
実際に中国は今月、半導体の製造に使うガリウム製品などの輸出手続きを8月から厳格化すると発表した。日本から輸入する海産物の検査を厳格化した措置が半導体製造装置の輸出規制と全く無関係かどうかも分からないのが実情だ。
5日付の中国国営英字紙チャイナ・デイリーによると、中国商務省の魏建国・元次官は、中国政府による半導体素材の輸出管理措置は「始まりに過ぎず」、さらなる制裁措置や手段があるとけん制した。
経産省幹部は「米国との応酬をみていると、何かやったら何かやり返してくる」と身構える。
<国際的な枠組み目指す日蘭>
冒頭のパブリックコメントが訴えるように、規制内容が異なる中で軍事転用の阻止という同じ目的を達成するには、日米間で基準を合わせるためのすり合わせが重要になる。米国メーカーの装置が許可されなかったのに、日本メーカーの装置が許可されるような事態や、その逆も避けなくてはならない。
「米国は、日本とオランダが規制していないものにも網をかけている」と、通商問題に詳しいワシントンの弁護士、ケビン・ウルフ氏は指摘する。
前出の政府関係者の1人は「米国が何かしら軍事的な懸念を掴んで輸出を許可していないのに、日本がその懸念に気づいていない可能性もある。互いに情報交換をしながら基準を合わせていくことになる」と話す。
9月1日からはオランダも半導体製造装置の輸出規制を強化するため、調整はさらに複雑化することが予想される。オランダも日本と同様に中国を名指しせず、規制対象製品を明示している。
日本とオランダはいずれWAに規制内容を反映し、多国間の枠組みで管理したい考え。しかし重要事項の決定は参加42カ国による全会一致が原則となっており、意思決定に時間がかかる。さらに加盟国ロシアによるウクライナ侵略で安全保障上の対立が顕在化したことで、規制品目や制度の追加などで合意形成する難度が一段と高まっている。
そのため、日米蘭をはじめ少数の有志国でWAのような体制を作る案が浮上している。米国務省と商務省で勤務し、現在は戦略国際問題研究所(CSIS)に在籍するジム・ルイス氏は、「全加盟国の賛同を得ようとすると何も始まらない。まずは関心のある国だけで始めるべきだ」と話す。
前出の日本政府関係者の1人は「少数の技術を持った国同士で品目ごとに、この品目についてはこの人たちだけで決めて管理をやっていくのが選択肢だ」と語る。
<米が追加規制を検討>
これまでのところ、23日に始まった規制で大きな影響を受けそうな日本企業は多くない。経産省は10社程度とみている。
成膜装置の一部が対象となるKOKUSAI ELETRIC(東京都千代田区)はロイターの取材に「規制強化の主旨に沿う形で影響を最小化することができるため、業績に与える影響はほとんどない」と回答。エッチング装置などを扱う東京エレクトロン、検査装置のアドバンテストも影響は軽微とした。露光装置のニコンとキヤノン、洗浄装置のSCREENのコメントは得られていない。
一方で米国は、10月ごろ規制を追加するとみられている。ロイターは6月、米政府がオランダの露光装置メーカーASMLに対し、オランダ政府以上に厳しい輸出制限を課す可能性があると報じた。米政府は、同国製部品や技術を使った装置を直接規制することができる。当初は7月に発表が見込まれていたが、遅れているもようだ。「米国がまだ日本と話し合っている。米国が何かを制限する場合、日本も同様に制限されることを確認する必要がある」と、事情を知る関係者は言う。
日本半導体製造装置協会によると、2022年度の日本の半導体製造装置の販売高実績3兆9222億円のうち、中国向けは25%程度を占めた。今回輸出管理対象にならなかった装置の需要減少や将来の販売機会損失などを考えると、「中長期的にみれば日本経済への影響は小さくない」と、大和総研のエコノミスト、岸川和馬氏は指摘する。
(杉山健太郎、Tim Kelly、Karen Freifeld 取材協力:竹本能文、Toby Sterling 編集:久保信博)

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