コラム:コラム:公的債務削減渋る政治家、中銀の利下げ阻む要因に

コラム:公的債務削減渋る政治家、中銀の利下げ阻む要因に
 1月3日、2025年の世界経済は、新型コロナウイルスのパンデミック発生以後のどの期間と比べても格段に良好な状況になるだろう。写真は米FRB本部前で2008年3月撮影(2025年 ロイター/Jason Reed)
[ロンドン 3日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 2025年の世界経済は、新型コロナウイルスのパンデミック発生以後のどの期間と比べても格段に良好な状況になるだろう。経済成長は堅実さを保ち、インフレは最終的に落ち着く。これは中央銀行が利下げに動く上で理想的な環境だ。しかし金融緩和が景気をさらに拡大させるという好循環には、大きな壁が立ちはだかる。それは各国政府に膨大な公的債務を削減する能力も意欲もないという事実だ。
大きな外的ショックがなければ、世界経済にとって25年は穏やかな1年になってもおかしくない。国内総生産(GDP)の世界合計の成長率は24年並みの3.2%を維持して19年の2.9%を上回る、と国際通貨基金(IMF)は予想する。先進国で見込まれる成長率は1.8%と、パンデミック以前の9年間の巡航速度だった1.9%と遜色ない。
A line chart showing annual GDP growth in the world and advanced economies from 2010 to 2029
確かに世界の成長率はなお長期平均を下回るだろう。その主な理由は、中国が世界経済のけん引役を担った時代が過去のものとなったことによる。先進国の中でも成長ペースには大きな格差があり、米国が再び強さを示して、欧州と日本の低調さをカバーするだろう。それでも比較的おとなしい成長率に伴って物価の落ち着きもやってくる。IMFの見立てでは、25年は全ての先進国で物価上昇率は各中銀が目標とする2%前後で推移しそうだ。
このような経済環境は普通ならば中銀にとって最も喜ばしい。数年にわたって急激な利上げで人々の生活を圧迫する「悪役」を演じざるを得なかった米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長や欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁らは、今度は金利引き下げを通じて家計や企業に恩恵を与える立場を得られるはずだ。実際、FRBとECB、イングランド銀行(BOE、英中央銀行)は利下げを開始し、市場は今後1年そうした利下げが続くと予想している。
通常の局面では、着実な成長と低い物価上昇率、金利低下は経済に新たな好ましい結果をもたらす。つまり政府による公的債務圧縮だ。しかし特に先進諸国の政治家は、せっかく財政緊縮に動けるチャンスをつぶそうとするだろう。
これは世界的に財政状況が健全化しているからではない。むしろ実態としては、両親がいなくなった週末に子どもたちが乱痴気騒ぎをした後の家庭に似ている。IMFの計算では、2030年までに世界の公的債務はGDPの100%と、19年比で10ポイント高まることになる。米国、日本、フランス、イタリア、中国、ブラジルを含めた世界のGDPの75%を占める国は、少なくとも26年までに財政赤字がGDPの3%を超える見通しだ。またこれらの国が今から29年までに計画している財政赤字削減規模は、IMFの提言する水準の4分の1に過ぎない。
Multiple line charts showing budget deficits as a percentage of GDP for advanced economies on average, the euro zone, the G7 and the United States
言い換えれば、主要国の政治指導者らはほぼ恒久的な財政拡張路線を容認している。さらに緊縮措置は確実に有権者の票を失うので、すぐにこの路線を撤回するつもりもない。アルベルト・アレシナ氏らの経済学者の調査によると、GDP1%相当の増税は次の選挙で与党の得票率を平均7%も減らすという。
財政のベルトは既に緩み始めている。米国ではトランプ次期大統領が掲げる政策により、足元でも膨大な財政赤字が35年までに最大15兆ドルも上積みされる、と超党派シンクタンクの「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」は推計している。英国でも労働党政権が29年までに年間約700億ポンドの歳出拡大に動き、財源の半分を借り入れで賄う方針を打ち出した。ドイツでは2月の総選挙で歳出拡大意欲の強い政権が誕生する公算が大きい。フランスとイタリアを含む欧州の7カ国は、欧州連合(EU)が定めた財政ルールに抵触している状況だ。
政治家の歳出拡大志向とそれによるインフレ効果のため、中銀には受け入れるのが難しい2つの選択肢しか残されなくなる。1つ目は、財政赤字と公的債務に目をつぶり、利下げを続けて物価上昇率が2%の目標より高めに推移するのを甘受することだ。こうした道は、持続的な高インフレを招き、中銀の信認と人々の生活水準に打撃を与えるとの懸念がある以上、採用する中銀当局者はほとんどいないだろう。しかもパウエル氏やラガルド氏らは、22年から23年にかけて物価の連鎖的な上昇に手をこまねいていたと幅広い方面から批判された経緯がある。
もう1つの選択肢は、市場の想定時期よりずっと早めに利下げを停止し、物価上振れの兆しが最初に見えた時点で利上げに転じることだ。英国は既にその方向性が示され、投資家は政府の歳出計画に反応する形でBOEの想定利下げ回数を1回減らした様子が、LSEGがまとめたデリバティブ価格の動きから分かる。しかし25年に世界的な財政拡張の勢いが増すとともに、投資家は利下げ期待を一段と巻き戻す必要に迫られる。これは市場を常に不安定化させて政府債利回りの高止まりと資金調達コストの押し上げにつながる。政治家が財政上の底なし沼に陥る道に固執すれば、住宅購入者や債券投資家、企業が高い代償を支払う羽目になるだろう。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab

筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。