6月日銀短観、大企業・製造業2期ぶり改善:識者はこうみる

当面は現行計画に沿って国債買入の減額継続が適切=中村日銀理事
 3月10日、日銀の中村康治理事は、衆院財務金融委員会で、国債買い入れの減額が進むもとで「市場機能の改善は進んでいる」と述べた。写真は日銀本店。都内で2024年3月撮影(2026年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
[東京 1日 ロイター] - 日銀が1日に発表した6月短観は、大企業・製造業の業況判断指数(DI)がプラス13と2期ぶりに改善した一方、大企業・非製造業のDIはプラス34と2期ぶりに悪化した。総じて米国の通商政策を背景にした不確実性の高まりが業況の下押しになった一方、価格転嫁の進展で企業収益が好調に推移した状況を反映した。
市場関係者に見方を聞いた。
◎大企業は改善も中小・下請けに負荷
<野村総研 エグゼクティブエコノミスト 木内登英氏>
大企業製造業は予想より若干良かった。おおむね横ばいだったともいえるが、トランプ関税に対する警戒感が一時期より和らいだ。トランプ関税はそこまで大きな打撃をもたらすわけではないということで、景況感自体が戻ってきたのではないか。ただ、不安が全くないわけではない。関税の影響を受けやすい非鉄金属・金属・鉄鋼などは、警戒感が残っている。
  今回の特徴は中堅・中小企業で、先行きの落ち込みが大企業より大きい。関税の影響で大企業の輸出が落ちるとなれば、下請けである中堅・中小企業にマイナスの影響がじりじり表れてくる。トランプ関税の一番の犠牲者は下請けだということが調査結果には表れている。
  日銀はしばらくは追加利上げしないというメッセージを送っている。米関税などの影響などで不確実性が極めて高いとしており、今回の短観が当面の金融政策運営に直接大きな影響を与えることはないだろう。
◎企業部門は総じて堅調、追加利上げは来年1月か
<SBI新生銀行 シニアエコノミスト 森翔太郎氏>
関税政策という大きな不確実性のもとで、今回の結果は企業部門が総じて堅調さを保っていることを示す内容だったとみている。
ただし、日銀がハードデータの見極めを重視していることを踏まえると、今回の短観の結果が直接的に利上げ判断に与える影響は限定的だろう。当面の金融政策運営は様子見が続き、2025年前半のハードデータを確認できる今年の秋口頃までは利上げは見込みにくいとみている。引き続き、関税の影響が企業収益の下振れを通じて賃上げモメンタムの悪化につながるリスクを見極める観点で来年の春闘の動向を確認することが重要だ。次回の利上げ時期は2026年1月会合になるとのメインシナリオを維持する。
もっとも、利上げ前倒しのサブシナリオとして、通商交渉が進展し、関税政策を巡る霧が晴れる方向に向かえば、年後半のハードデータを確認の上、25年10月会合で追加利上げに踏み切る可能性もあると考えている。
◎経済の下振れリスク見極め、年内の利上げ可能性残る
<野村証券 エグゼクティブ金利ストラテジスト 岩下真理氏>
 業況判断DIについては意外にも大企業製造業は改善していた。米関税の影響を受けている自動車は足元落ち込んでいる。素材関連の回復になっているが、足元で押し上げたものは、先行きでは落ちている。企業収益の大規模製造業の下方修正はそれなりに出てしまったものの、マインドはそれに比べて大きく落ち込まなかった。設備投資判断の下押しにはなっていない。米関税の影響がすべてに行き渡っている状況ではなく、この程度であれば軽微であり、経過観察中という状況だろう。
企業の物価見通しは1年後は前回よりも低下した一方、3年後、5年後のいずれも2%超が続いている状況だ。販売価格見通しも大きく落ちているわけではない。物価の上昇に伴う、価格転嫁方向への企業の体質は変わっていない。
経済の下振れについては不確実性が高い。これ以上、経済の下振れが止まっていることを確認できれば、足元で続いている物価上振れリスクを認識して、日銀は政策運営をどうしていくのかを検討できる。見極めにもう少し時間がかかるとみているが、年内の利上げの可能性は残る。
◎円買い材料には強く反応、物価の伸びに注目
<ステート・ストリート銀行 東京支店長 若林徳広氏>
強めの日銀短観など、円買いと言っていい材料には強く反応する一方、円売り材料への反応には勢いがない。ドル/円は上値が重く、なかなか上がらない。145円では跳ね返されるというのを肌で感じる相場になっており、トレーダーとしてはドルロングをあまり長くは持ちたくないだろう。上方向には長いトレンドが形成されない状態だ。
オンラインの製品価格を抽出したステート・ストリートのプライススタッツでは、物価上昇の鈍化がみられる。日銀にとっては今後、インフレが落ち着く、もしくは低下するなどして、次第に利上げしづらい状況になっていく可能性が気がかりだ。
物価の伸び鈍化は利上げをしないことをサポートする材料にもなり得る。現在はドル/円はなかなか上がらないが、140円は割れておらず、動いていないということでもある。日銀や米連邦準備理事会(FRB)の動向次第では、トレンドが転換する可能性もある。
◎景況感底堅さの持続性見極め、日銀は様子見継続か
<東海東京インテリジェンス・ラボ シニアアナリスト 澤田遼太郎氏>
今回の短観は、米関税の影響が反映されている内容ということで注目されていた。大企業・製造業の業況判断指数(DI)は市場予想を上振れたが、この底堅い動きが持続するかは現時点では分からず、どのように捉えれば良いか判断は迷うところだ。
米国との関税交渉がなかなか進んでいないことから、日銀の政策スタンスとしても協議の行方を見極めたいというムードではないだろうか。
きょうの日経平均は売りが先行しているが、前日までの5連騰の反動とみられる。下げ幅は大きくなく、400円程度の下落であれば健全な調整だろう。短観発表後の市場の反応を見ると、最終品だけでなく部品メーカーなども買われており、指標の結果が下支えとなっている面はありそうだ。
相場の地合いは悪いわけではなく、米国の利下げ期待が維持される中では株価は上方向を試す展開となりそうだ。
◎トランプ関税の影響まだ限定的、景況感は堅調
<農林中金総合研究所 理事研究員 南武志氏>
自動車の業況判断DIは低下はしたが、まだプラス圏内にとどまっている。一方で鉄鋼など既にマイナスに沈んでいるところもある。業種によって景況感はバラけていて、トランプ関税が直接的に何か影響を与えたかは判然としない。総じて大企業製造業の景況感は堅調で、しばらくはトランプ関税のインパクトを見極めたいということだろう。
非製造業DIは悪化したが、歴史的に見ても高い水準にあり、インバウンドの影響も含めて堅調に推移している。
設備投資は、大企業を中心に大きく上方修正された。引き続き設備投資意欲は堅調だ。売上高と経常利益は増収・減益の見通しだが、更新需要が大きいDX・省力化などニーズは多い。
全般的に見てトランプ関税の動きによる影響はまだ限定的で、景況感にも悪影響は及んでいない。4月初めに相互関税が発表された直後は利上げがかなり遠のいた印象があったが、今マーケットはそれ以上にリバウンドしている。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab