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コラム:豪ドル円、「超V字回復」の行方 カギは米株動向に=植野大作氏

[東京 14日] - 世界中の人々が新型コロナウイルスの災厄に見舞われて始まった2020年もあと約半月で大晦日を迎える。コロナ禍の嵐は外為市場にも吹き荒れた。変動の大きさを象徴した通貨ペアの1つ、豪ドル円相場を振り返ると、良くも悪くも今年は「株価にらみ」で非常に分かりやすく動いた1年だったと総括できる。

 12月14日、世界中の人々が新型コロナウイルスの災厄に見舞われて始まった2020年もあと約半月で大晦日を迎える。2018年2月撮影(ロイター/Daniel Munoz)

<相次ぐ利下げでも逆に反発>

年初76円台でスタートした豪ドル/円は、3月のコロナパニックで起きた世界同時株安の奔流に巻き込まれ、ザラ場で一時59円台まで暴落した。ただ、その後は株価の反発を眺めて切り返し、12月11日には78円台まで浮上して年初来高値を更新、「超」のつくV字回復を果たした。

この期間中の豪ドル/円のチャートをみると、世界総合株価指数(MSCIワールド・インデックス)と山谷がほぼ一致している。この間、豪州準備銀行(RBA)は、3月に開いた臨時会合で政策金利を過去最低の0.25%まで引き下げると同時に、3年物国債利回りを同じ水準に誘導する新たな金融緩和を導入した。しかし、政策発表の日を大底にして豪ドルは逆に反発、急激な失地回復に転じた。

その後、RBAは株価にらみでどんどん進む豪ドル高をけん制する含意もあり、11月の会合で2つの目標金利を0.1%に下げると同時に半年で1000億豪ドルの国債などを買い入れる追加緩和に踏み切った。だが、RBAによる豪ドル高阻止の試みは、ほとんど無視され現在に至っている。

市場心理が好転する時に買われやすい豪ドルと、委縮する時に買われがちな円の組み合わせである「豪ドル/円」という通貨ペアは、豪州国内で配信されるローカルなニュースよりも、世界的な株価の動きに投影されるグローバルな景況感のうねりに反応してダイナミックに動く局面がしばしば観測される。今年はまさにその典型であり、本当に「豪ドル円らしさ」が表れた年になった。

来年の豪ドル円相場を展望すると、端的に言って「株価次第」になるだろう。豪ドル円相場のナビゲーターを今年務めた世界総合株価指数の内訳をみると、米国株が6割6分以上の圧倒的シェアを占めている。来年の豪ドル円相場の取引レンジを考えるうえで、鍵を握るのはやはり米国株の動向になりそうだ。

<株価続伸なら80円台にアップも>

以下、来年の豪ドル円相場の行方について「株価続伸」、「株価安定」、「株価下落」という3つのシナリオに分けて整理しておきたい。

まずは最も明るい「株価続伸」シナリオだ。来年も米国株が堅調に推移して史上最高値を更新し続ける場合、豪ドル/円は「リスクオン型」通貨ペアの本領を発揮、巡航高度は現在の70円台から80円台へアップしそうだ。ただ、80円台後半ではさすがに上値が重くなり、90円台まで欲張るのは難しいのではないか。

かつて豪ドルは、政策金利の水準が主要7カ国(G7)の3倍を優に超える高金利通貨だった。このため、「超高金利の魅力」が「高値警戒感」をまひさせて100円台まで買い進まれる場面も散見された。だが現在の先進国通貨の間で「金利の南北格差」はほぼ消滅、豪ドルの高値を追いかけて買い続ける投資家はいなくなっている。

来年も世界の株価が今からさらに何割も上がるようなら、豪ドル/円の90円台復帰の可能性も無くはないが、主力の米国株がすでに史上最高値圏まで上昇している点を加味すると、今年と同じような勢いで株高が進むとみるのは難しいだろう。豪ドル/円が80円台に復帰して定着するシナリオの確率については、2割程度だとみている。

<株価安定なら水平飛行>

次は中庸の「株価安定シナリオ」だ。経済の先行きをいち早く思い描いて動く株価の性質上、コロナワクチン投与後に来る世界景気の回復局面を既に織り込んで今の株価が形成されているとみる場合、来年の豪ドル円相場については、このシナリオの確率が最も高くなる。

世界景気が深い景気の谷から立ち直る回復初期の段階において、期待先行の株高が加速することはよくあるが、各国がコロナ不況対応で発動した巨額の財政出動と歴史的な金融緩和の効果でこれから世界の景気や企業業績が株価に追いついてくるなら、来年の豪ドル/円の巡航高度は今とあまり変わらぬ70円台を中心とした水平飛行がイメージされる。

良くも悪くも派手な値動きが持ち味の通貨ペアなので、多少上下に振れると70円割れを試したり、80円台に挑んだりするかもしれないが、豪ドル/円の市場に世界最大の流動性を供給していると推測される日本のFX愛好者によるカウンターの逆張り売買が刺激され、70円台を大きく逸脱はしないだろう。おそらくこのシナリオの確率が一番高く、7割程度と考えている。

<ワクチン効果が期待外れなら下落か>

最後に、少し残念な「株価下落シナリオ」についても一応触れておく。米欧英中露などの国々で年内にも投与が始まる新型コロナのワクチン効果がもしも期待外れになって世界景気が再び失速する場合、来年の株価は大幅に反落して豪ドル/円の巡航高度も60円台に押し戻されそうだ。

ただ、その場合でも、世界景気の二番底が一番底より深くならなければ、50円台までの差し込みは起きないだろう。実際、今年3月中旬に到来したコロナパニックの最悪期に豪ドル/円は一時59円90銭台まで急落したが、60円割れ水準での滞空時間は約30秒しかなかった。

かつて豪ドルの金利は北半球の主要国に比べて大幅に高かったため、平時に膨らむ短期筋の豪ドル円買いのポジションや仕組み系の金融商品などを通じて積み上がる長期の豪ドル建て資産の買い残が巨額になりやすかった。そのため、想定外の株安局面に巻き込まれると反動で起きる豪ドル安ショックも驚くほど大きくなりかねなかった。

だが現在の豪ドルは昔ほどの高金利通貨ではなくなったため、リスクオンの局面で膨張しがちな上値追いの買い残高が小さくなって上値が伸びなくなった分、株価が値崩れを起こした時に起きる豪ドル/円の下げ幅も相対的に小さくて済むようになったと推測される。

加えて、国際収支の面からみると、豪ドルが先進国で突出した高金利通貨でなくなったために海外への利払い負担が小さくなって所得収支の赤字幅が縮小。近年大幅な黒字に転じてきた貿易収支の改善も相まって、現在は豪州の経常収支が過去最大の黒字を計上するに至っている。

今年の春先に株価が激しく値崩れした際に、貿易決済絡みの為替フローが豪ドル/円の下値を支えていた可能性が高い。来年、「株価下落」のリスクシナリオが炸裂する確率は1割程度だと思っているが、その場合でも60円台前半では底堅く推移するのではないか。

以上、筆者が考える来年の豪ドル円相場のシナリオを示した。いずれにしろ、株価の動きが鍵となる。日本の株の格言では、今年は「子(ねずみ)繁栄」の年であり、春先こそコロナで激しく値崩れしたが、年末には史上最高値を更新する米国株に牽引されて日本株もバブル後の高値を記録するなど、まさに格言通りの年になった。

ただ、同じ格言によれば、来年は「丑(うし)つまずく」年になるらしい。一時的に株価がつまずいても転倒さえしなければ、筆者が思い描くメインシナリオの確率が高まるだろう。間もなく始まる「ウィズ・ワクチン」、「アフター・コロナ」の世界が平時の活気を取り戻す年になることを祈念している。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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編集:北松克朗

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