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コラム

コラム:点検後の日銀、米国流の財政拡張策でスガノミクスの一翼担う展開か

[東京 12日 ロイター] - 日銀が19日に公表する金融政策の「点検」は、緩和策の長期化に備えた「弾薬調達」が主な狙いのように見える。足元で直ちに「実弾」発射とはならないだろう。それよりも菅義偉首相が4月から実質的に展開し始めると予想される「スガノミクス」で、日銀がどのような機能を果たすのかに今後、より多くの関心が集まるのではないか。

 日銀が19日に公表する金融政策の「点検」は、緩和策の長期化に備えた「弾薬調達」が主な狙いのように見える。足元で直ちに「実弾」発射とはならないだろう。写真は都内の日銀で2016年9月撮影(2021年 ロイター/Toru Hanai)

米国ではバイデン政権の下でイエレン財務長官が拡張的な財政政策を打っているが、経済の二極化による消費の力不足に悩む日本でも、2021年度予算案が年度内に成立後、てこ入れを図る経済対策と補正予算編成が政治的な課題として浮上するだろう。大規模な赤字国債の発行も視野に入り、イールドカーブコントロール(YCC)を武器に日銀がその一翼を担う新たなマクロ政策が姿を現すと予想する。

<点検は長期化に備えた弾薬調達>

市場の関心が高い点検について、まず、簡単に概要を予想してみたい。日銀は金融緩和が長期化しても「弾薬不足」に陥らないようにするため、上場投資信託(ETF)の買い入れについて、日銀の判断で買入額ゼロも選択できるような枠組みを構築するだろう。1つの選択肢として、年間6兆円の元々ある買い入れ枠を撤廃することも考えられる。

2つ目は、市場に「できない」と見くびられてきたマイナス金利の深掘りが実行可能になるような対応だ。金融機関へのマイナス効果を和らげる手段があれば、理論上のリバーサルレート(マイナス金利政策の副作用が効果を上回るとみられる水準)近くまで追加緩和が可能になる。具体的には、3層構造になっている当座預金残高のうちの基礎残高にかかる0.1%の付利を引き上げる手法などもありうるだろう。

3つ目は、長期金利の許容変動幅の手直しだ。現状は0.2%程度となっているが、1つの可能性として0.25%程度に小幅拡大することもありうるのではないか。円債市場の機能不全を解消する「道具立て」として、このアイデアも検討対象になるとみている。

これらの「政策ピース」は、緩和長期化に備えた「弾薬」の調達にたとえることができる。調達しても直ちに「使用」するとは限らない。仮に長期金利の許容変動幅を小幅拡大したとしても、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、緊急事態宣言が1都3県に発令されている中では、イールドカーブの下方シフトの可能性も市場に意識させながら、長短金利の低位安定を目指すスタンスを強調することになるだろうと予想する。

<さえない実体経済と政府のカード>

このように緩和長期化に備えて「弾薬」を厚く調達した日銀を待ち受けているのは何か。それは、今年秋までの衆院選を控え、経済の落ち込みを何としても回避したい菅義偉政権の打ち出すマクロ政策だろう。

9日発表の1月家計調査では、実質消費支出は前年比6.1%減と落ち込んだ。首都圏などでの緊急事態宣言の発令が響いたようだ。1月の実質賃金も前年比0.1%減と、11カ月連続のマイナスとなった。

日経平均は一時、3万円台を回復するなど30年ぶりの高値水準だが、実体経済はコロナ禍の影響で対面型のサービス業が振るわず、富裕層と低所得者層との「二極化」が日本経済の回復力を削ぐかたちとなっている。

政府も同様の問題意識を持っているとみられ、菅首相は12日の政府与党連絡会議で「女性の非正規(労働者)やひとり親の方々をはじめ、就業に困難を抱えている方々、望まない孤立や孤独で不安を抱えている方々への支援策について、与党の意見も踏まえて来週取りまとめたい」との考えを示した。

こうした検討に加え、今秋までに実施される衆院選を前に、与党内では企業経由ではなく、米国型の個人に直接給付される支援金の大幅な増額を望む声が大きくなっている。このため21年度予算案の成立を待って、政府・与党内では追加の経済対策や補正予算の編成に向け、検討が始まると見られている。

規模などは不透明だが、対象を絞った給付金の交付や打撃を被った業界や企業、個人への支援を幅広く行うなら、21年度予算案に盛り込まれた予備費では足りず、相当な規模の赤字国債発行も検討対象になるのではないか。

<米欧金利上昇とYCC>

海外を見渡すと、米国の1.9兆ドル規模の経済対策や景気回復で先行する中国の膨張する需要を意識して、国際商品市況が上昇。米長期金利もいったん1.6%台まで上がり、つれてドイツなど欧州の長期金利も上がり出した。欧州中銀のラガルド総裁は11日の会見で「大規模かつ持続的な市場金利の上昇が放置されれば、経済の全部門で資金調達環境が時期尚早な逼迫(ひっぱく)にさらされる恐れがある」と懸念を表明した。

日本でも、大規模な追加経済対策の検討が市場で意識され出すと、長期金利の上昇が急激になるのだろうか──。私は、そうはならないと予測する。日銀のYCC政策の枠組みが作動し、日銀による国債の買い入れが増加して、利回り上昇を抑制することが市場参加者にわかる仕組みになっているからだ。特に4月からは国債買い入れの上限を撤廃しており、その「威力」は絶大だ。

安倍晋三政権のアベノミクスの3本の矢の1本目は、大胆な金融緩和だったが、スガノミクスの主力は積極的な財政政策になると予想する。その政策の「副反応」である長期金利上昇を抑えるのが日銀のYCCという構図が、新たに登場しそうだ。

ただ、このポリシーミックスも万能ではない。野放図な財政拡張に陥れば、無駄な投資が全国に広がり、将来世代のつけを膨張させるだけになりかねない。「ワイズスペンディング」を確保するための外部組織によるチェックシステムの導入も、日本型拡張政策には欠かせないと指摘したい。

コロナ禍の対応に追われる自転車操業的政策ではなく、この逆境を逆手に取った新しい政策の枠組みの提示を政府には望みたい。

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編集:石田仁志

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